「…派遣…ですか…?」



連合宇宙軍ビル本館にある、提督のオフィス内で彼は無表情な顔で尋ねた。



「うむ…… 向うからの希望で、優秀なパイロットが一人欲しい…とのことだ。」


「ご命令ならば……」



深刻そうな顔をしながら机の上に両手を組んでいる提督に向かって、彼はそう返答する。



「いや…私はそういうつもりで、お前さんに言っとるわけじゃあ……」



途端に軍人の威厳を崩してしまい、慌ててしまった……ミスマル・コウイチロウ提督。



「私に気を使う必要はありませんよ、ミスマル提督。(笑)」





そう…今、この部屋にいるのは……提督である義父と、連合宇宙軍所属・ミスマル・カイト中尉……










……この親仔だけである……






















2199年6月10日。



親愛する姉は、彼が敬愛する男性と…仲間達が祝福する幸せの中で…漸く結ばれた。


周囲が見守る間、彼と彼の妹…のような瑠璃色髪の少女…も二人を暖かくみつめている。





……漸く辿り着いた…大切な場所……












2199年6月19日。



ユリカとアキトは、二人の思い出の場所 "火星" へ向けて新婚旅行に出発した。


そして…二人を見送る青空の中に、赤い血の色をした光が灯り……闇の色をした業煙に包まれていく…


彼等が大切にしていたモノは、二人が乗っていた "火星行き 『シャトル』 の爆発" とともに失われてしまった。





……突然見失ってしまった…大切な場所……












2199年6月21日。



御統家にて、二人の葬儀が行われた。


喪主は、ミスマル・コウイチロウ。 ……アキトの両親は、すでにいなかったから。


アキトの遺影を義娘のルリが… ユリカの遺影を義弟のカイトが… 持っていた。



二人を見守るかつての仲間達は、皆…悲しみに暮れている。



ルリは何故かその中にいても、涙を流すことができなかった。





…心の中のどこかで、彼女は泣いていたのに…







…そして…無表情な顔で彼女を見守る…カイト……










…… 彼の黒い瞳は "絶望" という名を持った、永遠の闇の中で………




















………………………… いまだ消えることの無い "灯火" を捜し求めていた …………………………




















































機動戦艦ナデシコ セカンドスト−リ−

無限の時空(とき)の中でみつけた、大切なモノ



――― 旅立ち ―――



















































ルリとカイトは…環境を変える意味もあって…ミスマル家から、ハルカ・ミナトの家に移った。

そしてルリは学校にも一時期通ったのだが…


人から与えられた場所ではなく… コウイチロウの勧めもあり …連合宇宙軍に自分たちの居場所を移した。


そして、試験艦 『ナデシコ B』 に乗る事で、二人は 『オモイカネ』 と再会した。










カイトの専用エステバリスは 『ナデシコ A』 を降りた後 『アトモ社』 の下で "封印" することに決めていた。

『遺跡』 と違って、カイトしか扱う事ができないその "黒い技術" は、そうする他に方法がなかったからだ。


カイトが、そう望んだから…… 『ナデシコ』 を守るための "盾" なのだからと……


…失ったかつての仲間達も、カイトが無事に帰って来てくれる事を望み……その約束は果たされたのだから……


自分を息子と呼んでくれた人へ、せめてもの "墓標" にしたいと想っていた。


『ネルガル』 も "カイトの鎧" を 『パンドラの箱』 として "封印" することを選んでくれた。



ただ 『ナデシコ B』 に戻っても……カイトは、自分専用のエステバリスに乗る事はなかった。





……まるで、彼が守る本当の 『ナデシコ』 がまだ見つからない迷仔のように………












ルリも迷っていた……



カイトは、専用機に乗らなくても的確な判断力と操縦力で通常の機体を操る事ができる。


それはさながら、鬼神の如く敵を悉く撃ち倒していく "精密機械" のように。



……自分が艦長として、彼を制御しないと……





カイトの専用機は、もしかしたら彼の "戦闘(たたかう)力" を "封印" するものだったのかもしれない。



…彼の心の闇を "封印" する "鎧" として……





なぜならば、彼が……そのまま……自ら "死" の中へ飛び込んでいってしまうことが、ルリには恐かった。

彼女に残された大事な家族を、もう失ってしまいたくはなかったから……



……そうじゃない……彼は……私の家族ではなく……












……そうして二人で迷いながら歩いていると、いつしか自分たちの居場所にも人が集まって来た……







火星の 『遺跡』 を調査した時に知り合った、元木連優人部隊の "高杉・三郎太" が 『ナデシコ B』 に配属された。

そして 『ナデシコ B』 のオペレ−ションシステムの補助として "真備・玻璃" がついている。

そのためカイトは…エステバリスの戦闘から離れて…艦長である彼女を補助する事となった。


…今は、義姉のユリカ仕込みの作戦参謀(存在)として、ルリの側にいる…






















「…血は繋がっていなくても、ユリカが可愛がっていたお前のことを……私は、本当の息子だと思っておる。

…… 『宇宙軍』 も優秀な人材が不足している状態だが……」



カイトは、提督である父のその言葉が、とても嬉しかった。



「… 『ネルガル』 から直々に、お前が指名されてしまったのでな。」



新たに設立された 『統合軍』 は 『クリムゾン・グル−プ』 と提携し、"ヒサゴ・プラン" を推進していた。

『宇宙軍』 にはかつての勢力は無く、ボソンジャンプの独占に失敗した 『ネルガル』 も、その利権を失ってしまっている。


その 『ネルガル』 の技術提供の下 『ナデシコ B』 の運用を行っている現状では、今回の依頼を断る事はできなかったのである。










「…了解しました。 謹んで 『ネルガル』 への "移転命令" を受理致します。(びしっ)」

「だが、私としては… カイト…… おまえまでいなくなってしまうのは ……その……なんだ……」


ユリカを溺愛していた父の顔は… カイトもできれば自分の …側に残って欲しいと、訴えている。



「ルリくんにも、まだ話していないのでな。」

「え!?」


今のカイトにとって、唯一の弱点(飼い主)の名前が突然出て来たことで、思わず動揺した声をあげてしまう。


「あの娘のことも考えると、どうも気が進まなくてなぁ…」





カイトにとっては有り難い義父の心配なのだが、ここは仮にも軍である。

命令であれば、止む負えない事があるのは、当然であった。


そんな義父の悩み(迷い)に対する、カイトの応えは……





「大丈夫ですよ♪ お義父(とう)さん。 なんとかなりますって!(ぶいっ)」


さすがは、ユリカに仕込まれた仔犬の性格。 いたって能天気で明るい声で返事をした。


「カイトぉ〜〜〜(涙声)」



コウイチロウはすでに、連合宇宙軍提督としての威厳もかけらも無く、一人の親バカと完全に化していた。










カイトは、提督である父をなんとか宥めた後、部屋から退出し……



…… 今の場所と仲間に "別離" を告げるため 『ナデシコ B』 へと向かった。










…… 『ネルガル』 の目的には、まだ何か "裏" があると、彼は直感する。 ……










…… おそらく "封印" を解く必要があるのかもしれない ……




















――― 『ネルガル』 の極秘プロジェクトに、彼の存在が必要とされたから ―――




















――― それは … カイトの無意識 … 心の闇の海 … の底から響いて来る "囁きの声" ―――






























――― そう、見失った "光" が … ひとつ … そこにみえたような 予感があったから ―――














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