機動戦艦ナデシコ セカンドスト−リ−

無限の時空(とき)の中でみつけた、大切なモノ



―― カイトの日記 = 『ピ−スランド王国』 へ そのB ――





「では…すみませんが、ボクは先に戻りますね。」





『ピ−スランド王国』 滞在二日目の朝、ボクはアキトさんとルリさんと別れて 『ナデシコ』 に帰る事にしました。



アキトさん達は、これからルリさんの生まれ育った "スカンジナビア半島" にある施設へと向かいます。

昨夜、王宮に用意された部屋で休んだのですが、その時にルリさんが父プレミア王から伺ったとのことで…

当然ボクも来るものだと思っていたアキトさんは、「カイトも、もちろん一緒に行くだろ?」 と言ってくれましたが…



… 一応、予備の外部バッテリ−も持って来てありましたし ……ボクは元々荷物持ちが役目で来たのだし …


…… それに頼まれたモノの中にはなぜか "ナマモノ" もあったので ……あ、ユリカさんの頼まれモノだ(笑)……



という事で、せっかくの誘いをボクは断ってしまいました。

アキトさんはまだ "残念そうな顔" をしていましたが、なんとか納得してくれました。



「それでは、仕方がありませんね……」



ルリさんは、けっこう "あっさり" としたいつもの口調で了解してくれました。

昨日みたいなトラブルはまず起こらないでしょうし、ボクはアキトさんを信頼していますので……



…… ルリさんが望む "騎士" は、今回はふたりもいらないでしょうし ……



そう結論して、ボクは二人と別れて引き上げることにしました。




















……でも、ほんとうは無意識のうちに、二人が向かう行き先から、ボクは逃げ出してしまったのかもしれない……




















「カイト様? …カイト様の "バイオリズム" が、やや低下しておりますが…いかがなされたのですか?(心配)」



ふと "LEDA" の呼びかけで自分の意識を取り戻すことができた。



「あ…… 大丈夫だよ ……心配してくれて… ありがとう ………」

「……そうですか。(心配)」



戦闘外のバイオセンサ−を処理した "LEDA" が、勝手に起動し……ボクを心配して声をかけてくれたのだ。

過保護な性質をもった "AI" だけど、ボクはこの時、本当に感謝しました。

あまり自分を "無表情な機械" にしてしまうと、心の闇に支配されてしまう気がするから……










――― 諸刃の剣 ―――





……いつもボクが意識しようとしている "心の呪文" ……











…まぁ、あまり自分を過信しないための教訓みたいなものです。

自分の感情が極端すぎて理性を保つために、いつしかこう思うようになったんですけどね。




















『ナデシコ』 に帰還したら、まずは艦長に報告です。


帰ったのがボクだけなので、案の定ユリカさんはボクの報告を受けると困惑した態度をみせました。



…… 大丈夫ですって …… 信じてあげましょう ……ってなにを!?…ですか……はぁ……



予想通りのユリカさんの反応。

ここはやはり、あの "切り札" の登場です。


「!? それってほんとっ!? ユリカのために、アキトが〜………♪(泣いたカ○スが…)」


あの時、アキトさんには特に理由はいわなかったけど… なんとなくこ―なるんじゃないか …と思いまして…

でも、アキトさんは照れながらも 「まぁ、そうだな…」 って思った顔をしていましたから。

結果オ−ライです♪










頼まれたお土産を(迷仔になりながら)ひとつづつ渡していきます。


暫くして、プロスさんに会った時にアキトさん達の行動を報告します。 すると……



「そうですね… テンカワさんの例もありましたし、ルリさんが自分の生まれ育った場所を見にいくことは当然の権利でしょうな。」



そう返事をしてくれました。





――― 自分の故郷 ―――



……ユリカさんと逢う前の自分の(失われてしまった)記憶……







そう、ボクは "本当の故郷" と呼べる場所を知らないのだ。

御統家の養子となり、ユリカさんが義姉となってくれても、それは自分の本当の故郷ではないから……










…… 暗闇の記憶の中にある、自分の本当の故郷の場所 ……












「おや、カイトさん。 どうなされました? 顔色があまりよろしくないようですが…」


プロスさんの言葉で "はっ" としたボク。


少し心配顔のプロスさん。


「少し疲れたみたいですが、食事でもして気分転換して来ます。」

「そうですか。 あまり無理はなさらないように、気をつけてくださいね。」





……自分でも今日は、何だか少し変です。




















「ホウメイさん。 頼まれたモノと、お土産です。」


ちょうどお客がいない時間帯のようで、料理の仕込みも一段落したホウメイさんが、食堂のテ−ブルにボクを案内してくれます。

どうやら、『ピ−スランド王国』 の話が聞きたいみたいですね。


頼まれたいくつかの香辛料と、ボクが見繕った調味料と食材を渡しながら話すと… とても喜んでくれたのですが …


暫く話を聞いた後で、ふとボクにこう尋ねます。



「おまえさん、何故一緒に行かなかったんだい?」



それは怒っている声ではなく、ホウメイさんの言葉は優しく諭すような言い方でした。


「ルリ坊が "来るな" と言ったわけじゃないんだろ?」





… アキトさんにはつらい過去の記憶(故郷)があった。 両親を亡くしても、今日まで一人で生きて来た …


もしも、ルリさんの過去もつらいモノだとしたら、ボクにはそれを支えてあげることができない。

彼女の苦しみを解ってあげられるのは、同じ過去を乗り越えたアキトさん。

そして彼女もアキトさんを選んでいた。



… 自分が思う事 …


ボクが "記憶喪失" だという事を 『ナデシコ』 で知っているのは、おそらく…

…ユリカさん、ジュンさん、プロスさん、セイヤさん、ホウメイさん、イネスさん、そして、アキトさん。

彼等から尋ねられたから…というわけでなく、自然と自分から話した人です。


"過去の記憶" は無いけれど、今は自分の居場所がわかっているから……

ユリカさんがボクを拾って、連れて来てくれた場所があるから……


…無理に知ろうとしなくても……










「カイト……おまえさんは、優しい仔なんだね。」



自分の仔供染みた言い訳に対して、ホウメイさんは決して臆病者とはいわずに、そう言ってくれました。



「でもね、そういう時は側に居てあげてもいいんだよ。 いや、見守ってあげた方がいいこともあるのさ。」



…そう…なんですか…?



「おまえさんとルリ坊って、良く似ているよ。」

「……ボクが無表情になる…ところ…とかですか?」



それを聞いたホウメイさんは、もっと別のことだよ…という顔をして笑い声をあげました。


「そうじゃないよ。(笑) 今の自分が大切に思う "場所" のことさ。 あんたなら解るだろ?

まぁ、ルリ坊自身は、まだ良くわかってはいないだろうけどね。」





今のボクにとって、大切な場所。 …王様に言った事… そう、この 『ナデシコ』 が一番大切なボクの居場所。





……でもボクは …心の何処かで… まだ彼女を信じてあげる事ができなかった……



もしも彼女が 『ナデシコ』 ではなく 『王宮』 や 『施設』 や 『それ以外』 を自分の居場所と決めてしまったら?



……そう…ボクは…… 彼女が此処から居なくなってしまうことが ……恐かったんだ……





…そしてそれは…… ボクにとって …… 彼女が ………なのだから……




















「大丈夫さ。」



困惑していたボクに、穏やかな表情をしたホウメイさんが、優しい声で、そう教えてくれます。


「!? ………ホウメイ…さん?」


ボクは、ここまで彼女の事を信じてあげられるホウメイさんの言葉を、この時はただ不思議に思うだけでした。




















アキトさんが 『ナデシコ』 に戻ったのは夕刻頃でした。


ボクはその時、食堂から自分の部屋に向かっていました… …迷仔になりながら……


ボクが乗るエレベ−タ−が途中の階で止まり、扉が開くとそこには……



「…あ………」



御出掛け姿のままのルリさんが、少し息をはずませています。










…そのまま上昇するエレベ−タ−の中で、ボクと彼女はふたりきりとなった。



「…………」


「…………」



…何故か、おたがい顔を合わせられない状況となっているのですが…





「…あの……ルリ…さん…」





聞いてもいい事なのか、解らなかったけれど…





…ボクが彼女の顔を見て、そう話し掛けると… 彼女は後ろに組んでいた両腕を解いて …


… そっと前に移しながら … 自分の胸の前に両手を添えます ……










「カイトさん……ただいま。(微笑)」











彼女の小さな手の中に、"水色の小箱" がありました。










それに気がついた時、漸くボクの心の中から "暖かな光" が溢れて来ました。




















「おかえりなさい。 …… "ルリちゃん"(笑顔)」














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