機動戦艦ナデシコ セカンドスト−リ−
無限の時空(とき)の中でみつけた、大切なモノ
―― カイトの 『忘れえぬ日々』 そのB ――
夕暮れ時になると、さすがに冷たい風も厳しくなってくる。
でも… ベンチに座ったボクの横にもたれながら …穏やかな寝息をたてている小さな女の子…
この子がいてくれたから…ボクは、不思議と寒くはなかった。
「ユリカさん。 今日、おでかけしませんか?」
「わ〜初めてだね♪ カイトくんから、ユリカに "おねだり" してくるなんて。
ううっ…お姉さんはと〜ってもうれしいな♪」
「じゃあ…ジュンさんも誘って、みんなで遊びにいきましょう。」
「うん、いいよ。 それでは、早速準備をしなくっちゃ! …あ、カイトくん。
ジュン君への連絡は、お願いするね。」
「ええ。 わかりました。(笑)」
そして、三人で "アミュ−ズメントパ−ク" に来たんだっけ…
一昨日、ユリカさんはジュンさんとの約束を忘れて… ボクと買い物に出かけてしまったもんだから
…
昨日、そのことをジュンさんから聞いて… 初めてジュンさんのことが可哀相に想えて
…
今迄ボクは …ユリカさんを守ろうと… ジュンさんの行動を邪魔していたから
…
… だから、今日はこれまでの事も含めて、お詫びがしたくて …
「カイトくん… 今日は誘ってくれて、ありがとう。 …僕は、とてもうれしかったよ!」
「はい。 今迄ホントに、ゴメンなさい。 だから、今日は …頑張って下さい…」
「えっ…!?」
この時のボクは、自分の感情を上手く言葉にすることができなかったから…
… たぶん、素っ気無い言い方 …だったかもしれない… ジュンさん、ゴメンね
…
いや …おそらく今でもボクは… 口ベタなんだと思う。
だから、自分の負の感情が大きくなってしまうと… 何も言えなくなってしまう
…
…そう、あの時のボクは… 彼女の冷淡な言葉に、何も言い返す事ができなかったくせに
…
… ただ、おもわず "敵意" だけをむけてしまうだなんて …
彼女の言葉はあまりにも "正論" で… だけど、理屈がわかっても反論したかったから
…
… 自分の大切なモノを傷つけられたから …
そう… なによりも、そんな不甲斐ない自分のことが …
"LEDA" のために、今迄何もできていなかった自分が、一番腹立たしかったのだ
…
『オモイカネ』 はボクにとっても "友達" だったから、彼の "暴走"
を止めてあげたいと思った。
でも、彼の心の言葉を知ったら、その時のボクでは止める事は出来なかった。
…『オモイカネ』 は、ボク達の事を "友達" とは認めてくれていなかったから…
だから、彼が一番大切に想っていた存在…彼女の行動を待ったのだ。
たとえ 『オモイカネ』 がボク達のことを "友達" と想ってくれなくても、ボク達は彼のために何かをしたかった。
彼のために自分が出来る事を探し求めていた。
… ボク達は彼の事が好きだったから …
… "言葉" よりも "行動" で示したかった …
たとえ …その結果… 自分の気持ちが相手に伝わらなくても …
たとえ …それが… 自己満足にすぎなかったとしても …
無駄なことだとはおもわなかった… あきらめてしまったら、それこそ無駄になってしまうからだ。
そして、そんな自分がバカである… ということは、"彼女の呟き" のおかげでボクもよく解っているのだろう
…
でも、今のボクは …彼女のあの "心無い一言" に… 感謝している。
ボ−ッとしたり、気持ちが滅入ると、いつも迷仔になってしまうからだ。
なによりも彼女の言葉は、ボクに …迷いも無く… 自分のすべき事を教えてくれたから。
あの言葉で発憤したから、見失っていた自分を見直せて、知らなかった力と大切な気持ちに気づくことができた…
だから …今のボクは… 彼女にあやまりたいと想っている。 艦内を彷徨いながら…
彼女を探して …
あれ? でも今は違っていたっけ…
ここは、"アミュ−ズメントパ−ク" の… "ゲ−ムセンタ−"
の入り口前にある… "ベンチの上"
ジュンさんとユリカさんに気を遣って、暖かい飲み物を買ってこようとその場を離れて…
案の定、…ボクは迷仔になっちゃったんだっけ?(笑)
"迷子センタ−" に行こうとも思ったけど、やはり少し恥ずかしいし…また、目的の場所に行く迄に迷いそうだし…
そうしたら、いつのまにか小さな女の子が… 不安そうな顔をして …ボクのズボンの裾を握っていた。
「どうしたの? もしかして、迷っちゃったのかな?」
「…パパ、見つからないの…」
…困りました。 "迷仔の仔犬" が "迷子の小さな女の子"
に捕まってしまいました…
この子を連れて、声を出しながら探してあげるのが常套手段なんでしょうが…
こうも "不安な顔" をされてしまうと …
…きっと、更に自分が一人なんだと気づいて、泣いちゃいそうです…
"迷子センタ−" に辿り着く自信も、今はないんです。 …そんな自分が、情けないけど…
だからボクは、とにかく彼女を安心させてあげたくて、彼女の親がこの子を見つけてくれるまで…
…話し相手になってあげることにしました。
…そう、この場所で…
不思議ですね…
今迄自分のほうが不安だったのに、彼女のおかげで助けられた気持ちがします。
きっと、ボクはいつもユリカさんに頼ってばかりで、こうして人から頼られたことが…なかったからなのでしょうか?
「おにいちゃん、パパみたい♪」
「へっ? パパって、ボクに似ているのかい?」
「ううん。 ぜんぜん(強調)にてない! あはは!!」
…う〜ん、きっとこの仔は、将来大物になれますね〜(笑)
なにせ… さっきの不安顔とは違って …こんな状況でも、今ではこんなに明るく笑えるんですから♪
ボクもつい、彼女とお話するのが楽しくなって… 何時の間にか時間が過ぎていたことに
…気がつかなかった。
そしていつしか喋り疲れて、眠ってしまった彼女。
その寝顔は……とても安心しているみたいでした。
… 信頼 … されているのかな? …
穏やかなその表情を見守っていたら… ふと、そんなふうに感じました。
12月の冷たい空気の中 … どこかからか不思議と暖かい風が吹いてくると …
彼女が不意に目を醒ます。
「あっ! パパだっ!! おにいちゃん、ありがとね♪」
…ホント、彼女ってすごいですね。
一度も泣かないで、待っていられるなんて…自分の親が、見つけてくれるのを信じて、待っていたようです。
…とても嬉しそうに、お父さんに飛びついていきました…
…本当に、よかったです…
「…優しい、お兄さん…なんですね。 カイトさん。」
「!?」
突然ボクの後ろから声がかけられたので、"ビックリ" して振り向いてしまいました!!
「!! ルリさんっ!?」
… なぜ、貴方がここにいるんですか …
「もしかしてカイトさん… またいつもの… "天然" …ですか? って、ゴメンなさい!」
「…あっ… そういえば、ここって "バ−チャル・ル−ム" だったんだ…」
彼女のツッコミで、ようやくボクは思い出した。
ボクは… ルリさんを探して艦内を迷仔になっていた所を …セイヤさんに捕獲(笑)されました。
コミュニケの受信を使うことって、いつも忘れているんです。(笑)
だいたいいつものボクは、ボ−ッとしていますんで… 自分が "夢遊病者"
ではないことを祈ってはいるんですが …
セイヤさんはそんなボクに… "バ−チャル・ル−ム" の装置の調整を頼まれたから手伝ってくれ
…と言いました。
設定サンプルのデ−タが、欲しいそうです。 だから、特には断らなかったのですが…
… 今度彼女と会えた時に、謝ればいいかな? …
… でも、先にルリさんから …謝られてしまいました!?
「 『オモイカネ』 が、教えてくれました。 電脳空間で、カイトさんと "LEDA"
が助けてくれたと…
…ありがとうございました… 『オモイカネ』 は私にとって、大切な友達。
…だから、カイトさんにとっても "LEDA" が大切な存在…だったんですよね。
それを知らないで、つい言ってしまった私の言葉に…カイトさんは…怒ったんですよね…」
… ルリさん … 気づいてくれたんだ …
「カイトさん、いつもコミュニケの通信を切っているし…
『オモイカネ』 でカイトさんの場所を検索しても、何故か "行方不明"
となってしまいますから…
…ですから私… 妨害したり解析不明な、カイトさんの "LEDA"
に好感がもてなかった…あっ、すみません!」
淡々と弁解しながらも… つい口にしてしまった、ルリさんの本音。
「いえ… 気にしなくても、大丈夫です♪ …ボクの方こそ、ルリさんに謝らなければならないから…」
自然と出てきたその言葉が、ボクには嬉しかった。
「…え?…」
そして… 自分の拙い感情を見せてしまったことを …ようやく彼女に謝ることができました。
「そう思われても仕方が無かったんです。
"LEDA" の中にある "ブラックボックス" となってしまったデ−タを
"絶対服従のマスタ−" にでさえ、全部教えてくれないのだから…
…ボクも、そう想ったことがあるんですよ…
でも最近になって、少しだけ解ったんだ… "LEDA" は、言われた事をただ処理する
"機械" ではなくて…
自分の気持ちを大切にしていて、相手のことを気遣ってあげることもできる。
まぁ…それが、よく "暴走" の原因となってしまうんだけど…(笑)
そしてマスタ−に忠実であっても… 時にはマスタ−であっても自分の気持ちを伝えることのできる
…ただの機械の存在では無い…
友達の少ないボクにとって、大切な "仲間" なんだなぁ…って… 今は、想えるんです…」
「そうなんですか?(…友達、少ないんですか?…)」
「そうなんですよ♪(笑)」
この時のルリさんの不思議そうな表情に、多分ボクは… 悪戯っ仔のような顔をしていたんだと思う
…
ルリさんとも "大切な友達" になれたとおもったから…
だから、ボクはこの後一緒に "ゲ−ムセンタ−" で遊ぼう…と誘った。
ルリさんもいつもの表情で…
「そうですね… わかりました。」
…了解してくれました!
対戦ゲ−ム 「アイアイ」 や、 「 FIGHTING LEFT VS RIGHT
」
対戦結果は… 10戦 3勝で …ルリさんの圧勝。
そして "クレ−ンゲ−ム" の腕前も、ルリさんの方が上だった。
ボクがひとつで、彼女は九個。
上手に取れるコツを教えて欲しい、とお願いしたら…
「でも私、人に教えるほどうまくありません。 …そうだ、こうしましょう。
…今度逢えたら、教えてあげます。 それでどうですか?」
迷仔のボクは… 次があることを …とりあえず楽しみにして待つことにします。
「了解です!(ぶいっ)」
仮想空間から元に戻ると…そこには…
…セイヤさん、イネスさん、アキトさん、ジュンさん(鞭打ち)、そして…ユリカさん。
いつからそこにいたんですか?
ボクの横に立っているルリさんも驚いていました。
みなさん、嬉しそうな… 微笑ましそうな …そして、面白そうな(怒)顔して、ボクたちの様子を覗いていたようです。
「カイトくん、あの時のユリカ達は、ほんと心配したんだからね! …でも、ちゃんとおぼえていてくれたんだね…」
「…………」
頷くジュンさん。
… これはボクにとって、ユリカさんとジュンさんとの "大切な思い出"
ですから …
「くぅ〜カイトも、もっと男らしい根性をみせていれば、あとちょっとでルリルリと…」
「セイヤさん、そりゃマズイですってば…
でも、ルリちゃんもカイトも… ふたりで仲良く遊んでる所が見れて …オレも結構…
面白かったけどね。(笑)」
「本当ね。 実に興味深い展開だったわ。」
… セイヤさんにアキトさん、それにイネスさんまで …… まったく、みなさん言いたい放題ですね
…
「…バカばっか…」
さすがにルリさんも恥ずかしかったみたいで、怒ったように部屋から出ていってしまいました…
ボクを残して …(涙)
だから、慌ててボクがみんなに苦言すると…
…みなさん、苦笑いしながら声をかけてきてくれます。
「すまなかったな、カイト。 お前さんのシステムなぁ… "機械" のはずなのに
…
まるで "女みたいな拒否反応" をするもんだから…
つい、てこずってしまった事に… なんだ …その… まぁ、許してくれ。(笑)
あ〜ちなみに、どっかの "おばさん" は "LEDA" の不明な点が
"説明" できなくて、悔しいんだとよ!(笑)」
「だ〜れが "説明おばさん" なのよっ!!」
「イネスさん、自分で認めているじゃないですか!(笑)
…でもカイト… ルリちゃんも言っていたけど …ホントにアリガトな。」
「アキト君… あなたまで、私の事 …」
「………………」
「あらあら、えっとぉ〜(笑)…なになに… 〜 カイト君、よく頑張ったね。
〜とジュン君も言っているわ。」
声の出せないジェスチャ−で…通訳してくれたイネスさんの言葉に同意するように…頷くジュンさん。
皆の気持ちが嬉しいです。
…後で "LEDA" にも、この気持ちを伝えてあげたい…
「いえ…みなさん…どうもありがとう!(笑)」
「やっぱり、カイトくんの笑顔は、明るいユリカとおんなじ! さっすが、ユリカ自慢の
"仔犬" くんだね♪」
ユリカさんの、この "鬼畜発言" のおかげで、最後にみんなそろって爆笑してしまいました。(笑)
… 楽しいことも … 嬉しかったことも … 大好きなモノも …
… 悲しいことも … つらかったことも … 苦手なモノも …
見失ってしまったり、迷うことはありますが、捨てずに受け入れたいと…今は想います。
望みを捨てず… 消えることのない心の灯火 …
… 忘却は、自分の証を消してしまうこと …
そして、その証を誰かに認識してもらえれば… 自分にとっては … それがなによりも嬉しいこと
…
… 記憶喪失のボクにとって …
ここが、自分らしく生きられる場所。
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