機動戦艦ナデシコ セカンドスト−リ−

無限の時空(とき)の中でみつけた、大切なモノ



―― カイトの 『忘れえぬ日々』 その@ ――





「 "オモイカネ" は、私(わたくし)にとっては "兄妹" のようなモノなのです…」


「では、私(わたし)は貴方にとって、いわゆる "保護者" のような役目を果たさねばなりません。」


「あら、それにはおよびませんわ。(笑) 私は、カイト様にお仕えする役目がありますから♪」


「それでは貴方が今迄勝手に起こした行動が、どれだけカイトに "迷惑" をかけたかを正しく理解して下さい。」


「いいえ、それは違いますっ! 私はカイト様のことを想って、行動しているのです!!」


「その暴走思考が、カイトの 『ナデシコ』 での立場を良くも悪くもしているのです。

…私は、貴方のおかげで "苦労" というものを初めて覚えた "希少な存在" となってしまいました。」



「…な… なんですって! …それは "乙女" に対して大変失礼な言葉ですね! …あなたにそんなことを言われる覚えはありませんわっ!!」





「…もう、いいかげんにやめないかい? 『オモイカネ』 を助ける事は、ボクも "賛成" しているんだから…」





"ウィングライダ−" の操縦席に座っているカイトが …やれやれ、といった仔犬顔で… 二人に声をかけた。

…といっても相手は人間ではなく、カイトの専用機 "α" に搭載された制御システム…

…つまり、人工知能の "LEDA" と "ARU" に…である。





もともとは 『オモイカネ』 と同様に単一の存在なのだが、こちらは全く別のモノが同居?しているという "奇妙な事情" があった。

…あえて人間で例えてみるならば "二重人格" に近いモノがある。


主格であり戦闘補助と音声による操縦者とのコミュニケ−ト機能を有した "男性?" 進化型人工知能の "ARU" …


それに情報処理や機体の自己防衛機能、そして多様な特殊機能を司る "女性?" 進化型人工知能の "LEDA" …


カイトに対して "機械であるがゆえに忠実" "機械なのに何故か過保護" と、それぞれ "異なる性格" をしていた。



だからなのか… 二人の意見がぶつかると …よくこうして "漫才" や "痴話喧嘩" を始めてしまうことがあるのだ。



"ARU" は 『オモイカネ』 と同系システムなので、こちらから 『オモイカネ』 との情報連結が可能である。

これに加えて、暴走しやすい "LEDA" も一緒に起動すれば、高度な機能を発揮することができるはずだが…

通常の機体運用は "ARU" だけで充分事足りるため、カイトは自分から "LEDA" を起動したことが無かった…



ただし、今はカイトの意志で、この 『オモイカネ』 へのリンクに制約をしているのだった。





「今、アキトさんが 『オモイカネ』 の "自意識部分" へ向かっているんだから、こちらも "防衛" しておかないと…」

「 "Yes、マスタ−" 隠蔽処理を続行します。」


"ARU" は "LEDA" システムの稼動により、標準以上の性能を発揮している。

…というか、そもそもこんな機能は持ち合わせていなかったのだが…

そして …隠蔽作業を止めていたわけでもないのに… カイトの指示に対して "忠実な機械" のように応答した。


「カイト様、ありがとうございます。 …でも、本当によろしいのですか? "あの方" にカイト様のことを伝えなくても…」


それに対して "LEDA" の返答は、まるで人間の "少女" のような口振りであった。



「 "LEDA" … 連合軍の消去プログラムに対して偽情報を散布 …セイヤさんのサポ−トに集中して…」


「… "Yes … マスタ−" …」



今迄穏やかな表情をしていたカイトが、急に "無表情" と化す。

それは作業に集中した時の、彼特有の "クセ" なのだが……


"LEDA" には、カイトの感情を読み取る "センサ−" のような特性もあった。

だから、今のカイトの気持ちに逆らうことができなくなっていた…










… カイト様 …なぜ…そんなに… 怒って …いらっしゃるのですか…




















…数時間前 『ナデシコ』 は、連合軍との共同戦線…というよりも、最前線で戦闘をしていた。

そして敵軍から、まるで親の敵とされたような集中攻撃を受けていた。

当然それを迎撃するために 『ナデシコ』 のエステバリスが、全機発進をしたのだが…





ユリカ 「えっ! なに? なにがおきたの?」

ハルカ 「エステバリス隊、カイト機を除いて… "味方" も "攻撃" してますぅ〜!?」

ユリカ 「"味方" を攻撃ぃ――!?」

ルリ 「攻撃誘導装置に異常はありません。 『ナデシコ』 のエステバリスは、全て "敵" を攻撃しています。」

メグミ 「でも… 『ナデシコ』 のエステバリスは… "敵" と "連合軍" の両方を攻撃しています!」

ユリカ 「な・なんでェ〜?」



アカツキ […我々は "敵" を攻撃しているつもりだ!…]

アキト […それがなんでこうなんだよ…]

リョーコ […お〜い、こいつを何とかしてくれよぉ〜…]

イズミ […ま、なるようになるわね…]



連合軍兵 […何しやがんでぇ〜いっ!!…]



ジュン […僕は、君を守りたいんだ、ユリカ! …どわああ〜〜っ!!」

「ジュンさんっ!!」


増援のために、出撃したジュン。

だが、発進と同時に敵機と衝突してしまい 『ナデシコ』 ブリッジ上にひっくり返ったジュン機。

それをコクピット内のモニタ−で見てしまったカイトが、叫んだ!





…ジュン機から煙が出ていた…




「カイト様! 武装レベル "5" までの使用制限を解除します。 準備をどうぞ!」



"α" 形態なのに、突然 "LEDA" システムが自動起動する。

だが、状況的に混乱している戦場の中で… すでに "無表情の機械" と化したカイトはそれを気にすることはなく …

エステバリスの左手に装備していた 『アサルト・ライフル』 を機体の左脇に磁場固定する。

そして、機体背部に(エネルギ−供給コ−ドを本体の動力と連結させて)スラスタ−装着していた 『レ−ルガン』 を手で取り上げると…

…そのまま右脇腹に移して両手で構えた…

すると、今迄は収束していたかのように 『レ−ルガン』 の砲身が伸びてゆく。

その長さは、元の三倍にもなっていた。



「…機能…ロック解除…動力炉より重力波供給……発射カウント……あと5秒…」



カイトは、発射後に敵部隊が一番集中していく空間を予測しているかの様に、その砲身先を向けると "LEDA" に指示をだした。



「目標予測数全体の29%、射程に入ります。」

「……ゼロッ!」



カイトの低音の呟きと共に、砲身から "広域射程の重力波" が、放出された。

その黒い閃光が通り抜けた空間に、残存する敵機は全くなかった…


その威力は、まるで 『ナデシコ』 の 『グラビティ−・ブラスト』 に匹敵するモノだった…



「次の 『グラビティ−・ランチャ−』 発射まで、後…10秒…」


「…いや、もういいよ…どうやら "敵" は、こちらの "混乱" に戸惑って、撤退してくれるみたいだ…」

「了解…戦闘レベルを "ダウン" します。 …カイト様、また勝手な行動をしてしまって…すみませんでした…」


「……いや…助けてくれて、感謝しているよ。 ……ありがとう…… "LEDA" ……」





戦闘態勢が解けて、カイトの意識が戻ったようだ。 いつもの穏やかな声に変わっていた。


カイトは極度に戦闘に集中しすぎると、恐ろしいほどの精密機械と化してしまう。


たとえ自分の身体がどうなってもいいかのように…



…戦闘空間に "黒い闇" を呼び込んでしまうかのように…



暗闇を恐れるはずの仔犬が今みたいに自分を見失ってしまうと、それを "LEDA" が制して彼を止めてくれた。

だから、今のカイトは "LEDA" の行為を咎めずに、素直に謝ったのだった。










―― これは、感情の波が激しすぎるカイトの欠点でもあり、専用機を作ってくれた仲間達の唯一の心配の種であった ――

―― もっとも、彼等はカイトの "天然ボケ" による "ドジ" の方を心配していたのだが ――












「…カイト様。 私… 『オモイカネ』 が、心配なのですが…」


"ウィングライダ−" 形態で帰還していたカイトに、不意に "LEDA" が不安そうな声で話し掛けてきた。


「… "LEDA" は、優しいんだね。 『オモイカネ』 を心配してあげられるなんて…まるで "友達" みたいだね♪」


カイトもいつしか "LEDA" と "ARU" を、ただの人工知能という機械ではなく、自分にとって大切な "友達" として認識していた。


だから "LEDA" の、こうした反応を不思議に思う事はなかった…




















ようやくカイトが 『ナデシコ』 のブリッジに戻ると、先の戦闘における状況報告がもとで大騒動となっていた…





「カイトさんの援護もあって、とにもかくにも、味方に死傷者が出なかったのが、奇跡的幸い。 この上…慰謝料を払ってたら、どうなっていた事か…」



プロスは被害計算をしながら説明をする。 …これが後になって、アキトの不幸となるのだが…


そして混戦の原因をめぐって、パイロット達とウリバタケ整備班グル−プとが言い争いを始めたのだった…


「待って下さい……パイロットにも整備士にも欠陥は認められません。」


ルリがその争いを制して、双方に非がないことを告げる。


「じゃあ、なにが原因なの?」


ルリに尋ねるユリカ。 艦長としては、当然確認すべき事項である。



そこでカイトは、おもわずユリカに自分の意見を述べてしまう…



「あの… 『オモイカネ』 に何か、問題があったのではないんですか?

…ボクの機体は、特に影響が無かったし… "LEDA" もおそらくそうではないか?…と言っていましたし…」

「何かと "暴走" するモノの意見は、はっきり言って、あてにはできません。」


「そうね… ルリちゃんの言う通り …その点に関しては… さすがの私もそう思うわ…」


「カイト…お前さんの搭載システムは "制御不能" で "やっかいなモン" だと… シゲから聞いたんでな …」



ルリの即答は "正論" であった。 イネスやセイヤさえ、同意見であった。

確かに起動制限されているはずの "LEDA" が勝手に行動を起こしたせいで…

…これまでに何度か、カイトは戦闘任務を果たす事ができなかったのだ。

これが "ARU" やカイトだけの意見ならば、おそらくルリは反論しなかったはずである。

なぜなら "LEDA" によって、カイトへの連絡を "妨害" されたこともあるからだ。










――― "狂っている機械" に、正しい判断は不可能である ―――












その冷淡な言葉にカイトは衝撃を受けた。 …理屈は解るのだが…





するとそれまで温和であったカイトは、これまで誰にも見せなかった雰囲気… "無表情の機械" と化した。


先程の戦闘で "LEDA" が止めた "カイト" が、そこにいた…





今迄にカイトは "深遠なる怒りの表情" というモノを、顔に表した事がない…

幼い子供がよく見せる "嫉妬の表情" はあったのだが…



…少なくとも、ユリカはこれまで一度も見た事が無かった。



初めてカイトの "闇の表情" を目の当たりにしても、何故かルリは自分の表情を変えることができなかった…



ただ …初めて感じた彼の雰囲気に… 戸惑いを覚えたのか、ルリは何も言えなくなってしまう。





そう… 誰も彼女の "本当の感情" を窺い知ることはできなかった …










「おいおい、おまえら…何もそんなに険悪なム−ドにならなくても…」



ふたりの間に、ただよらぬ雰囲気を感じたセイヤ…



「あははは…カイトくん…女の子に向かって…そんな顔をしちゃ…ダメ…だよ…」



ユリカも初めて感じたカイトの "特殊戦闘機械" の気配に明らかに戸惑った声を出してしまう…


カイトは、ユリカの言葉で意識を取り戻すと… 自分の犯したミスに気づいて …


一瞬だけ、哀しい顔をユリカに見せると… そのまま無言でブリッジから去っていった …



その一瞬、ユリカはカイトの後を追いかけようとしたが… 自分の職務を思い出すと …

彼女は足をとめて、ルリの意見を再確認する。





… 大丈夫 …カイトくんは、ユリカの自慢の弟だもの… "優しい強い仔" なんだ…って、信じているよ…





「あ…はい。 …先程も言いましたが 『ナデシコ』 の攻撃誘導装置には、特に異常はありません。 …ですから、原因を調べに連合軍の調査団がこちらに向かっています。」

「 『ナデシコ』 の防衛攻撃コンピュ−タ−に問題があるんじゃないかって、 "ピ−ピ−" うるさく言ってます。(…まるで、悪口を言うのを楽しがっているみたい…)」



普段通りのルリの返答に、調査団からの通信を受けたメグミが、カイトの意見に近い言葉を報告した。





そしてようやくブリッジには、いつもの 『ナデシコ』 の雰囲気が戻ったようだ…




















ブリッジから出たカイトは …迷わずに… 早足で格納庫へと向かった。


そして、そこにある自分の "愛機" に乗り込むと…


制御システム "ARU" が自動で起動する…



「マスタ−承認… "カイト・ミスマル" …指示をどうぞ…」

「 『オモイカネ』 へのリンクを希望…… ただし、条件をつける …」



コクピットのシ−トを手動で "リラックスモ−ド" に調整したカイト。

IFSを繋げると、 "ARU" に 『オモイカネ』 への "リンク条件" を思考伝達する。



「私の機能では、あなたの希望をすべて処理する事は不可能です。」



正確に分析した結果を報告する "ARU"



「ちゃんと手段は、考えてあるさ…」



その言葉を口にしたカイトの表情は、とても明るい笑顔である。





…まるで、悪戯っ仔のようにはしゃいでいる…





そして次第に "真剣な表情" となったカイトは…










「… キミの "ともだち" を守るため、ボクに力を貸して欲しい … 一緒に守ってくれないか …… "LEDA" …」










… "眠れる少女" に目覚めの言葉を口にした…




















「… "Yes … マスタ−" …… おはようございます、カイト様♪」














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