『 撫子荘 』 合部屋 『
204号室
』 別室 その一
〜 小猫の 『
告白
』 〜
私の名前は 『
星野・瑠璃(ホシノ・ルリ)
』 7月7日生まれの11歳。
大人ではなく、子供でもなく、まして小猫でもありません。 私…少女ですから。
この前、自分が "機動戦艦のオペレ−タ−" をしていたり、"艦長" になっている夢を見ました。
夢見る少女が将来希望する職業…って、そんなわけありません。
現在(いま)の私は 『撫子学園 高等部 1年 C組』 の女子生徒です。
そして今まで自分を夢想家だと思ったことはありません。
どちらかといえば現実主義者の方かと…
なのに……彼は私の事を "夢見る少女" なんだね……とよく笑顔でいいます…
私の外見的特徴は、"雪のような白い肌" と "瑠璃色の長い髪"
子供だからと周りからバカにされないように、髪はいつもストレ−トにしていました。
でも今は、彼から貰った大切なモノで、初めて髪型を変えてみました…
機動戦艦の夢にでてきた私と同じ、"ツインテ−ル" です。
以前の私は、お洒落したりする事は生きていくのに無意味で不要なことだと思っていたのですけど…
…なぜだかよくわかりません。
そしておそらく、誰ももってはいない "金色の瞳" …
…これもなぜだかよくわかりません。
こうした私を一言でいうと…美少女…だそうです。
嘘ではありません。
学園で開催されたコンテストで、『史上初の快挙』 を成し遂げたのですから…
…少し脱線してしまいましたね。(恥) …話を戻しましょう。
私は生まれた時の記憶がありません。
あっ…これも言い方がちょっとおかしかったですね。
少し動揺しているみたいです。
身元不明の私は、三歳までスウェ−デンのある養護施設にいました。
そこでの生活は……あまり思い出したくない……まぁ、いじめられていたのでしょう。
変わった瞳の色と、私の態度のせいで…
私は自分の感情をうまく理解することが苦手です。
そして、自分の感情をうまく表現することも苦手です。
ですから、よく周りから誤解されたりします。
最近は、彼のおかげで少し克服することができたみたいです。(嬉)
そんな私ですが、養護施設から出る事ができました。 引き取り主が現れたのです。
仮親は、世間では変わり者で有名な 『星野鉄雄』
世界でも有名な大財閥、『星野家』 の当主です。
仮母はなし。 逃げられたのかも…?
日本という国に来て、チチが私にいったこと。
「わたしの気まぐれで君を引き取ったのだから、自分が望むとおりに生きればいいんだ。」
チチは嫌いではない。 でもチチは私が必要だとはいわなかった。
皆一様に私に傅(かしず)く、御屋鋪生活には今も馴染めないし、好きじゃない。
でも、養護施設とはまったく違う、新しい環境。 新しい自分の可能性。
私が四歳の時、チチの書斎で見つけたある論文について口答すると、みなさん、驚きました。
まぁ、新しい環境の御屋鋪でも、そんな私をまるで化け物のようにみる人はいましたが…
…いつものことです。 なれていますから、平気です。
私はチチにお願いして、外国の学校へ行く事にしました。
幸い星野家の保養地は、世界にいくつかありましたから。
けれども外国の生活もやはり、御屋鋪生活でした。 閉鎖的なのは同じです。
この時の私が選んだ場所は、多種多様な人間が共存するアメリカ合衆国。
自分の新たな可能性をもとめて、そこで頂点に辿り着いた時、
自分が望むものが何だったのかが解る、と思っていました。
自分が誰よりも優秀だと認められた時、
私は……11歳で 『 MIT (マサチュ−セッツ工科大学)』 を首席で卒業していました。
……でも、私は何も変わらない……
結局、私は何処にいっても…何になっても…人にとって、好奇と嫌悪の存在でしかありませんでした。
嫌われるのはいつもの事なのでどうでもいいのですが、他人から 「バカ」 にされるのはイヤ。
特に私が "子供" なのに…といわれるのが嫌いでした。
"嫌な" 大人にも、「バカ」 な子供にもなりたくはありません……私って 「少女」 なんです。
でも…より自分が優秀となろうとすれば、ただの "利用価値の高い道具" となるだけ…
結果は更なる悪循環を私にもたらすだけでした。
どこもかしこも、私の才能だけを評価してくれました。
その例として、『MIT』 在学中に世界でも五本の指に入るという、日本の大企業 『ネルガル』 が、
私の卒業後の進路先として提示され……ようするに、そこからスカウトされたのです。
いや、マジです。
それも会長秘書が直々に私の所に来てくれました。
私の答えは 「NO」 です。 まぁ、待遇内容は抜群に良好でしたが、私には関係ありません。
その理由は後ほど…
今の私なら、解ります。
…本当の私は、いつも何かに脅えて逃げていた…という事実。
この時の私、どこにも逃げるところが解らなかったので…
いえ、誤解していました。 無に帰ることが正しい答えだと…
私が存在するために無に帰る。 …なんか矛盾していますよね。
だからなのでしょうか? …私は今まで、無表情な機械のようになろうとして、無意識に自分を守ろうとしました。
外の世界と私の存在の間に見えない溝を上手に作れば、私の存在は守られるのです。
そんな私の対応に皆、戸惑うか…過剰に反応するか…そして、無視するか…
…どうしてこんなふうにあの時の私が結論してしまったのかは …今はもう、良く解りません。
でも…あの時は時々、何処かから聞こえてくる声…
…これが本当に私が望んでいた結末なのでしょうか…
…だって…私の周りの者みな、「…バカばっか…」 …
ですが……突然ある時から、その溝が少しずつ埋められてしまうのです。 私は機械にはなれない……人なのです。
それは私が七歳の時……七年間の海外生活で、一度だけ里帰りをした時のこと……
久しぶりにあったチチは、相変わらず私を必要としてはくれませんでした。
でも…そんなチチに連れられて偶然訪れた、撫子区で大地主の 『御統家』…
そこに私より5歳ほど年上の方が二人いました。
御息女(彼女)と、その縁者の… "あの人" でした。
今思うと、彼女の(少し強引な)包容力とあの人の(優しくて)純粋な笑顔に惹かれていたのだと思います。
… 『母』 であり 『姉』… 『父』 であり 『兄』…
不思議と…あの人達のところに行きたい…と思ったので、一緒になって遊びました。
そうしたら、つい大きな池に落っこちてしまいました。 …少女ですから。
でも本当は、私って運動音痴なんです。
おかげで繊細な少女の心に大きな傷を作ってしまい、今でも泳ぐのが苦手です。
水の音にちょっと過剰反応をおこす体質って、まるで…猫?
…ちがいます! ……でも彼には内緒です。(……バレてないといいのですが……)
溺れた私を助けたのは、一生懸命な顔をしたあの人。
そしてこの時、私の中に初めて生まれたもの…
…あの人を……唯一人の男性……として…心のなかに記憶したのです。
出会ったのはその一度だけ。
…でもなぜ?…
その後、私は文通を交すことを決めました。
…あの人に繋がる見えない糸が切れないように?…
…それは、たったひとつの…私の…願い?…
…あの人のところへ戻りたい?…
もう一度故郷に帰って、やり直そうと思うだなんて。
でも…それは、私にとって唯一の不思議な…楽しみでした。
けれども、…流れた時間は、あの人と私の距離を離してしまった…
再会は私に残酷な事実を与える。
あの人達が恋人同士になっていたなんて…
…やっと見つけたと思ったモノ?…
…後悔?…
…寂しいの?…
また会えたのに、また生きがいを失ってしまった私……
あの人達に私の願いを気づいてもらいたかった。
…これって私の我侭なんですよね…
けれども、生まれて初めて感じたモノを、まだ理解することも表現することもできませんでした。
それが理解(わか)ったのは、新春のイベント受賞の時。
……初恋と……失恋と……恋と親愛の板挟み……
私はあの人達に、この言葉を伝えることはできませんでしたけれど。
「ルリちゃんは、私の可愛い妹なの♪」
彼女は、こんな私の事を、大切に想ってくれている…
「瑠璃ちゃん? 俺にとっては……妹かな?」
観客として彼が微笑んでくれた。 彼女が私に抱き着く姿を見て…
……私はあなたの一番になりたかったんだ……
彼の笑顔は、彼女の妹である私だからこそ送られていたんだ…
…伝えることができなかったけど、気づいて欲しかった…
…あなたの一番になりたいことを…
…伝わらなかった…
…気づいてもらえなかった…
…きづかなかった…
…私はあの人達にとって、ただの妹のような存在…
瞳に涙が浮びます。
…この時、私の涙に気づいてくれた人が……ただ一人いました。
………そう、彼です………
でも私は、まだあの人を追い続けていました。
…無駄なことだと知りつつも…
私の願いは小さくなっていきます。
…私があの人の隣につくと、私の大切な彼女を失ってしまう…
せっかくあの人達が用意してくれた場所から、とうとう私は逃げ出してしまった。
……私は二人とも好きなのに……でも、一緒にいることがつらい……
そこは私の居場所ではなかったから…
でも…気がついたら、あの人の家…
…バカですね、私…
私の心、迷っています。
……見失ってしまった自分の居場所……私の心……私の願い……
この辺り…もう…自分の気持ちばかり書いてしまっていますね…
…結局、私って "夢見る少女" なのかな?…
……そうかもしれませんね……
…だって私…目醒めて、彼の顔を見るまで…夢をみていました…
……今までの私……これからの私……
冷たい水の中で、また私は溺れています。
……助けてくれたのは彼でした。
入学前に初めて彼をみかけた時……なんとなく…寂しそうで……自分の雰囲気と似ている気がしました。
…でも、私はあの人以外の異性は苦手…
あとで、彼があの人と彼女の親類と聴いて、あの人以外の男性に初めて興味を覚えた私…
受賞の時、私が流した涙…の意味…に気づいてくれたのは、…彼だけでした。
……なぜ、彼だけ…と私は気づいたのだろう…?…
そして、あの人と彼が余りにも似ていたから……私は戸惑いました。
私の本当の気持ちがどちらにあるのか。
彼の友人が教えてくれました。
…彼は、きみと同じだよ…と。
でも、私は彼を避けていて、彼も私を避けていた…
……御互いに無意識に……
あの人達と別れて、彼に出逢えた。
……彼ひとりが、あの人達にみえる……
私は、自分の存在を拒否されることが恐かった。
…あの人達と彼に…
……お願いです。 あなたは……本当の……私を受け入れて下さい……
「
…『撫子荘』 に住む人はみんな、ボクにとって大事な "家族" なんだ…
」
「
…大丈夫だよ。 貴方は、ここにいてもいいんです…
」
彼にそう言われて初めて受け入れられた…本当の…自分の居場所。
……それが私の望んでいた答え……
彼ひとりのそばに…いてもいい。
彼のそばから、離れたくない。
……たとえ今は、それが家族であっても……
…兄妹であっても…
ちがいます…
…
彼は、たったひとりの大切な人だから
…
生まれて初めて声をだして泣いてしまったことが、私の本音。
やっと辿り着いたその証拠(あかし)。
…ついてゆこう…
「
自分の気持を上手く伝えるのは、難しいね。
」
…理解(わか)ります…
彼が教えてくれる、私の心の色と言葉。
私が生まれたから望んでいる大切なモノ。
今はまだ、この心の音をうまく伝えることができません…
でも…これだけはきちんと理解(わか)っています。
…あの人たちへの想いと似ていて、違う気持ち…
そして……あの人への想いよりもおおきくて、あたたかな気持ち……
あなただけに感じています。
こんな
私
を許してくれますか?…………
カイトさん
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