撫子荘』 五号室




〜 『仔犬』 と 『小猫』 の奇妙な同居生活 〜





「ねえねえ、ミナトお姉ちゃん、これなんかどうかなぁ〜?」

「う〜ん、悪くはないんだけど…あたしはどちらかといえば…こっちの方がいいかとおもうんだけど。

どう思う? ルリルリ?」


…はぁ…?…別に…


「ちょっと、あんた。 せっかく私とミナトお姉ちゃんがえらんであげてるんだから、

その 『ど〜でもいいです〜』 って態度はやめてくんない!?」


…すみません…


「まぁまぁ。 ルリルリってお嬢様育ちだから…多分…こうゆうのは初めてなのよ。

ユキナも、いちいちいじめるようなこといわないの!」


「でもでも〜…やっぱなんかムカツク〜ぶつぶつ…」


…………

…………





とあるデパ−ト売り場での女性三人のやか(?)な会話を、

ボクは少し離れたところで、そっぽを向いて聞いていました。


だって…


「あ−っカイトちゃん、さぼってるぅ〜!(怒)」

「だめだよカイトくん。 ちゃんとルリルリのために選んであげなきゃ〜(意地悪)」

!! ボクは男ですっ!!



二人の女性が、ランジェリ−コ−ナ−から黒い尻尾を振って、ボクを手招きしている。


…あ…二人そろって悪魔の微笑みをうかべていやがる…


ルリちゃんは…というと、少し頬を染めた冷た〜いジト目…軽蔑のまなざしでボクをみている。

それを見て多分…茹でダコの顔した仔犬が…そこで右往左往していたんだろうなぁ……はぁ〜(自己嫌悪)


…こんなことだったら、やっぱしセイヤさんの方へ一緒に行けばよかった…





ルリちゃんの爆弾発言があった翌日、ボク達は彼女の身の回りの物を調達するため、

かなり遠出して…ボクは初めてきた百貨店で…買い物に来ています。

ミナトさんいわく… 「学園の知りあいに会うとちょっと面倒だからねぇ。(笑)」 …だそうですが?

ミナトさんのマイカ−(赤のステップワゴン)にユキナちゃん、ルリちゃん、ボクが乗って、日常雑貨用品の購入。

セイヤさんはマイトラック(自慢の青い改造軽トラック)で、知り合いから家具を調達する事になりました。

最初、ボクもセイヤさんを手伝おうとしたのですが、うるうる目をしたユキナちゃんの説得…


「カイトちゃんは、かよわい女の子に重たぁ〜い荷物をもたせるような、恩・知らず・じゃあないよねぇ〜うるうる。」


「ほれ、我が家のお嬢さま直々のご指名(仔犬の散歩)だ。 まぁ、こっちは大丈夫だから、一緒にいってこいや。」


と、頼みのセイヤさんにも断られてしまいましたのさ。 …とほほ…



…そういえば、ずいぶんと買い込んでいるけど、ミナトさんの部屋って、スペ−スに余裕があったっけ?…



ルリちゃん用のコップ、洗顔用具、食器類少々、バック、ファンシ−グッズ?、衣類、そして…下着(恥)


これに家具も入るのだとするとセイヤさん、ミナトさんの部屋の状況をしっているんだろうか?


余談だけどミナトさんの部屋、結構少女趣味した物もあるんだよなぁ。 …最近はあまりお邪魔していなけど…

大人の魅力をもつ女性でありながら、そうしたアンバランスなところもあるミナトさん。 …九十九さん談…

『撫子荘』 の男性陣(セイヤさん・九十九さん)にとっては、かなりヤバイそうです。 …ヒカルさん談…

そんな二人を傍目に、ボクを見たヒカルさん。


「カイト君も、も〜ちょっと大人だと面白いんだけどねぇ〜」

にやけながら、実に残念そうに言っていました。


…漫画のネタを逃した時に、彼女はよくこの顔をするのですが…?





…おっと、いけない。 ボ−ッとしてると、ユキナちゃんにまたいわれてしまう…





「カイトちゃんの "ボケボケ仔犬モ−ド" 緊急解除!!」



"パシ―――んっ!!"



どこからともなく、かわいた炸裂音がボクの頭を直撃した。

その威力ときたら、ヒカルさんクラス(=コミカル打撃)を超えて、

最近ますますオリエさんクラス(=殺人打撃)に近づいている…

『撫子荘』 の七不思議のひとつ、『どこでも"ハリセン"』 の炸裂でした。



「…てな風に、カイトちゃんがこうなったら、やるんだよ♪」

…了解しました。(ふっ)



痛む頭を抱えながら…涙目の…ボクは、また自分の身長が縮んでしまうのではないか?と、心配なのですが…

ユキナちゃん印の専用ハリセンが、和んだ空気のなかで、ルリちゃんに渡されています。


…あれ…ルリちゃん…いま少し笑わなかった?…


こうしてまた一人、『撫子荘』 にあらたな使い手が誕生しましたとさ…(涙)










買い物済んで、『撫子荘』 に戻ったボクは… 信じられない光景を目の当たりにした……










あの〜…しつも〜ん…なんですが……なぜ……ボクの部屋に…見慣れない家具、…が〜置いてある、…のでしょうか…?





家具の位置を調整しているセイヤさんと九十九さんがボクの部屋にいた…


「そりゃ〜おまえさんの部屋しか置くスペ−スがないんだし…親父さんの了解もとれた事だし…

それになぁ〜新しい同居人の事をみんなに伝えたら…特に、ヒカルちゃんは大喜びしていたぞ♪(真顔+悪戯)」

…昨日のヤボ用って、これだったんですね、セイヤさん…


「カイト君。 …これ僕が作った物(箪笥)だけど、よかったら使ってくれたまえ。(歯がキラリッ)」

…何時の間に九十九さんも…爽やかな顔して箪笥(タンス)をもちながらふざけた事を言わないで下さい!…


「当ぉ〜ぜんっ! 空いている部屋もないからに決まっているでしょ? もしかして…カイトちゃんっておバカさん??」

…だからっ! そういう問題じゃあ〜ないんだって、ユキナちゃん…


「大丈夫♪ なにかあったら、カイトくんが責任をとればいいんだから♪(艶笑)」

…ミナトさん…それでも…あなたは本当に聖職者なんですか?…



…この人達って本当に面白けりゃ何でも来い……のお祭り騒ぎ好きだからなぁ…


…いや! 一般常識人がまだいましたっ!!



そうだっ、ルリちゃん! …ルリちゃんは…こんなのイヤだよね!!(汗)

別に構いませんが。



いやにあっさりといいのけたルリちゃん



マジですか!?

マジです。





最後の常識の砦を失い、再び呆然となったボクは、"ボケボケ仔犬モ−ド" へと逃避していく。





…『撫子荘』…それは、一種の無法地帯…そこには世間一般の常識というものは…一切存在していない…










…昨日、あれからなんとか自我を取り留めたボクは、…まだ、痛む頭と…ルリちゃんの言葉に動揺しつつも…

なんとか彼女にその理由を尋ねてみたのだが…



…自分の居場所…



…ただ、それだけである。


…ホントに? ココがそうなの? という…疑問を彼女に問い掛けたかったのですが…



「まぁとりあえず、ルリルリが落ち着くまでは、ここにいてもかまわんぜ。 親父さん、OKだとさ。」


彼女の曖昧な呟きに、セイヤさん、まるで彼女の事情を知っているかのように安らぐ声で応えたのです。





…ありが…とう…



"ドキッ"


初めて彼女の笑顔を見ました。



…もう理由なんて、どうでもイイ…かな?





ルリちゃんの身体を気づかったのだろうか、ボクの予想に反して、その後の宴は早々に解散となりました。





…そして何故か今、ボクの部屋にいるのは、ボクとルリちゃん二人だけです…





汗をかいた彼女を、ミナトさんが拭いてあげて…ユキナちゃんの猫さんパジャマ(サイズぴったり)を着て…

蒲団から半身を起こした状態です。

当然ですが、彼女の着替え中は…部屋の外で…ユキナちゃんの "コブラツイスト" をくらっていました。


それを見た九十九さんは苦笑いをしていて…お願いですから、見てないで止めて下さい…イタタッ…

セイヤさんに至っては 「不憫な奴…」 と溜息をついていました。

ミナトさんが部屋から出てくると、優しいお母さんの顔でボクに言います。


「ルリルリ、悲しい想いをしていたから… カイトくん、今夜はちゃんと彼女の面倒をみるのよ。」


なぜか素直にボクもそう思いました。



…いつも寂しそうな背中… …あの時みせた涙… …そして彼女の寝顔…





そして、二人だけの空間となったのですが…


…いざ、そうなるとおたがい会話も特になく、辺りは沈黙の世界が支配しています。


良く考えたら、ボクは彼女いない暦15年。(哀) こんな状況も生まれて初めてなのです。


そんなこともあって、なかなか彼女の顔をまともに見られなかったのですが…





…あの…



ふとその呟きで、彼女と見つめ合ってしまう!!





…迷惑…だったでしょうか?…



不安げな表情をした、ルリちゃん。





… 一瞬心の中で、ためらうものがあったけど …



彼女に不思議と懐かしさを感じて、ふっと優しい気持ちになれました。





…『撫子荘』 に住む人はみんな、ボクにとって大事な "家族" なんだ…





まだ不安そうな顔の彼女。



今のボクは、彼女の方からボクに逢ってくれた事を感謝している。


…ボクの夢に再会できたことを…


そう…ようやく思い出す事ができた大切な気持ちが…とても、嬉しかったのだと…


だから …ルリちゃんの金色の瞳を暖かく見つめながら… ボクは応えた……





…大丈夫だよ。 貴方は、ここにいてもいいんです…





あの時とは違う色のが、彼女の瞳から溢れてきたことに…ボクは、気づく。





そして、その言葉を受け止めたルリちゃんを…ボクは初めて泣かせてしまいました。



セイヤさんが、心配する事はないからって…だから…ルリちゃんもボクも、絶対…大丈夫だよ。(真心)



慌ててなぐさめると彼女はボクの胸にしがみついてさらに大きく泣いてしまいます。



ボクは、その彼女の小さな肩を…そっと…抱いてあげました。





…悲しみも苦しみも、涙を流せればきっと…


…泣きたい時に泣けないと…ただつらいだけ…いつまでも迷い続けてしまう…


…泣ける場所があれば、きっと気持ちも晴れるはず…


…昨日の涙雨も、今日はやんで晴れたのだから…












しばらくして、漸く落ち着いた彼女は自分のことを恥ずかしがっていましたが…


やがていつもの表情に戻っていきます。



でも、以前よりも穏やかな表情で…本当に嬉しそうでした。



そして二人の間にも、穏やかな空気が流れだします。





〜 どうして 『撫子荘』 の階段の下でうずくまって、雨に打たれていたのか 〜


〜 どうして突然 『撫子荘』 に居たいと言い出したのか 〜






今では、その答えがどのようなものでも構わないと思っています。





…でも、夜が過ぎていくうちに、だんだんと彼女の安らかな寝息が気になってしまって…


とうとうボクは…押入れの中に非難して…朝を迎えたのです。(仔犬の習性)










"パシ―――んっ!!"



ボクの "ボケボケ仔犬モ−ド" を解除してくれたのは、なんとルリちゃん


起きて下さい。

ユキナちゃん、彼女の早速の行動に、チョットビックリ。


他の人からは、ルリちゃんの意外なノリの良さに大きな歓声。


するとミナトさんがニッコリ笑って…残酷な理由を…ボクに教えてくれました。


ルリルリと二日も一緒に過ごしたのだから、これって立派な既成事実よね♪」


「"きせ〜じじつ"したのよ、カイトちゃん!! おとなしく、かんねんしなさいっ!!」

…意味解ってないで、ミナトさんの真似っこしないで…ユキナちゃん…(涙)


「僕はまだ早いんじゃないかとおもうんだがなぁ。」

…だったら、止めてください九十九さん! …これって、犯罪ですよね!?…


「本当にいいの…?」


「な〜に、アイツならば大丈夫。 優しいヤツだからな、きっと…」


オリエさんとセイヤさんがボクたちを暖かく見守っています。



そこへ突然 『撫子荘』 家族の、最後の住人の登場です。



「あ−っ間に合った〜! アマノ・ヒカル、ただいま帰りましたっ! 貴方がルリルリ? よろしくねっ!」





ルリちゃんが、ヒカルさんに挨拶すると…ボクに優しく微笑んだ





よろしく♪






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