撫子荘』 四号室




〜 『小猫』 の拾い方教えます 〜







…私…ここにいても…いい…でしょうか?…





…へっ!?…





さて問題です。

白雪の肌とルリ色の髪でストレ−ト、金色の瞳で無表情という、一風変わった11歳の美少女。

この少女から、突然こう言われた場合、一体貴方ならばどう答えますか?






@:「もちろん、大歓迎だよ!」



あなたは、○リ○ンですね…



A:「ちょっと、それは困るなぁ〜」



…偽善者ですね…



B:「結婚しようっ!!!」



…重傷ですね。 社会復帰はあきらめましょう♪





…では、ボクの場合はというと…





C:「…………



→ 頭の中が真っ白になり、いつもの "ボケボケ仔犬モ−ド"(by ユキナちゃん)で、呆然としていたそうです。



…以上、ユキナちゃんセイヤさんミナトさんからの証言です。





…まあ…それはおいといて、どうしてこうなったかというと…





降りしきる雨の中、彼女は 『撫子荘』 の階段の下で、うずくまっていました。

雨宿りするには不十分な場所なので、彼女は雨にうたれて濡れています。

ボクが彼女に気づいて声をかけるまで、その姿はまるで泣いている小猫のようでした。

声をかけたからか、それとも彼女の方が先にボクの事に気づいたのかは覚えていません。

その表情は一瞬驚きの色を浮べたようですが、ボクが気づいた時にはいつもの彼女の無表情に戻っていました。

誰ももってはいない彼女だけの金色の瞳

そこに涙があふれていたのか、それは降りしきる雨が隠してしまいました。


ボクが彼女に近付こうとした時…

突然、彼女は倒れてしまった…


…彼女は身体が弱いんだ!!…


そう思った途端、頭ではなくボクの体が勝手に反応しました。

女性が少し苦手なボクですが、その時は少しも躊躇せずに彼女を抱きかかえて、自分の部屋へ行きました。


…不思議です……ただ…彼女の命の重みだけが……まだボクの両腕に残っています……


部屋に入るとすぐに、何枚かのバスタオルで彼女の身体を包んで、寝かせて、台所でお湯を沸かして…

…そこで突然、ボクに思考が戻ります。


…濡れた服を、どうしよう…!?


このままにしておけば、間違いなく彼女は風邪を引きます。 いや、肺炎を起こして、最悪の場合は…!!!

今思えば、ボクは無実です! 不可抗力です!! 邪心があって、彼女の服を脱がせようとしたわけでは…



"ピ―――――ッ"



突然、台所でお湯が沸いた音で、ボクは理性を取り戻します。

また勝手に体が動いていました。 彼女の服に手を伸ばしたところで、ハッと止まりました。


…危なかった…


そして、動揺する心を静めながら、最善の方法を……ありました!!

時刻は、夜の十時半を過ぎていますが、オリエさんの所へいって、彼女の着替えをお願いします。

オリエさんは少し驚きながらも、ボクの頼みを聞いてくれたのですが…


…オリエさん、なぜ彼女はボクのシャツとスポ−ツパンツを着ているんでしょうか?…





しばらくして、セイヤさんが帰ってきました。

めずらしくあまり泥酔してなかった事に後になってボクは驚いたのですが…


「姥桜では、オレは酔わんっ!(後日談)」

…とのことです。 五月の "お見(はなみ)" にでも、行ったのでしょうか?

でもやはり少し酔ってはいたみたいで、セイヤさんが部屋に入ってくるなり言った、最初の言葉…


「おおっ! 奥手のカイトが、と〜と〜を引っ張り込んだかっ!

オレは、おまえさんの成長がみれて、おまえの義父として、嬉しいぞぉ--っ!!(歓喜)」

…案の定、奥さんに "ウェスタンラリア−ト" をくらって、部屋のドアから飛んでいってしまいましたが…



その後復活したセイヤさんとオリエさんに事情を説明して、彼女の名前を言ったその時、

…ふとセイヤさんの表情が変わりました。 あまり見た事がない、深刻そうな顔でした。



そして暫くするとセイヤさんはゆっくりと立ち上がり、


「…そうか… …じゃあオレは、ちっとヤボ用があるンで、後はおまえに任せるぞ。」


と言って、困惑している奥さんを連れてボクの部屋から出ていってしまいました。



……?……





外はまだ雨が降っている……

部屋に残されたボクは、とりあえず彼女の様子を見る事にします。


…!!!…



彼女の白い顔が赤くなっていて、だんだん呼吸も苦しそうになっていた!

これをみたボクは……自分の過去を思い出さないように…

…自分の意識と思考を、機械のように無機的なモノと化して行動を起こしていたのだと思う。



…台所へ、冷蔵庫から、氷を、砕いて、氷枕、額に濡らしたタオルを、体温計、体温確認、容体確認、
濡れたタオルを冷やす、額に置く、汗を拭う、身体を拭く、タオルを交換、蒲団の調整、彼女の寝顔…






…あの時もそうだった… こうして彼女を見ていると、否応が無く思い出してくる…

彼女の態度…彼女の容体…彼女の面影…彼女の名前…そうだ…『瑠璃』…そして彼女の




…そう、だからボクは、彼女の事が気になったんだ…





彼女の寝顔が穏やかになって、漸くボクは、意識を戻した。

…記憶を再び無意識に封印する…

外は雨が止んで、春の暖かい朝日が台所の窓からさしこんでいる。



…しばらくしてから彼女の意識が醒める。

ボクはその時…ちょうど…彼女に飲んでもらうためのモノを、台所で用意をしていた。





…知らない…天井…?

…良かった…目が醒めたようだね…おはよう…



彼女の呟きを聞いたボクは、用意したモノをもって、彼女のそばへ行く。

その声に気づいた彼女は、ボクの方を向いて、顔をしばらくボ−ッと眺めている。


不思議です…この時になって、初めて彼女と(面と向かって)顔をあわせたような気がします。


…学校ではいつも目の前にいたのに…

…今までボクは、自分から彼女との距離を遠ざけていたのかもしれない…

…もう自分から彼女を避ける必要はない…

…今は彼女の顔をまともに見て、彼女の金色の瞳もきちんと見る事ができる…




はい、どうぞ。

用意したものをそっと差し出すと、漸く彼女も気がついたように驚いた表情をみせてボクの瞳を見つめ返した。

そして、ゆっくりと半身を起こした彼女。 視線は差し出されたマグカップへと移ります。





…これは…何…?


『あったかハチミツレモン』 だよ。



…これ、ボクも大好きなんです…これを飲んだら、元気がでます…

…きっと彼女も気に入ってくれます…




…あっ……あたたかくて…おいしい…です…



元気な顔がみれて…よかったよ……ありがとう…



…えっ……あ……ありが…とう…



本当は熱い方が良いのですが、少し冷まして飲みやすいようにしてあります。


あ、全部飲んでくれました。 いつのまにか、彼女の頬にも暖かみが戻ったようです。 …本当によかった…



…………


…おかわり…あるから、用意するね。(笑)


こくん


彼女のこうした反応は、出会ってからは初めて見せてくれたものなのですが、

不思議とボクは彼女の心が解るような気がしました。


そして熱いおかわりを彼女が口にすると…

…!!…


…舌をやけどしたみたいです。 予想した通り…まるで小猫のようです。

くすっ♪


思わずボクが破顔してしまうと、また初めて見せてくれた彼女の反応…

雪色の頬を赤く染めて、彼女はカップを胸もとに寄せて俯いてしまいました。

熱は下がったようなので、一応彼女の体調はもう大丈夫だとは思いましたが…


お腹はすいていないとの事なので、もう少し横になっているように促します。


こくん


…彼女は素直に眼を閉じました…





彼女が再び寝ている間に、ボクはセイヤさんの所に行って、状況を説明しました。

セイヤさんは何故かボクに…


「…そうか… …よくやったな…」


…と言って…誉めてくれました。



…ちょっと変です。 こういう場合いつものセイヤさんならば、絶対にボクを冷やかすのですが?

それに彼女の親には、既にセイヤさんが連絡してあるそうで…


…問題はないそうだ…って???…


…いくつか疑問はあったけど…


ボクはとりあえず、セイヤさん、ホウメイさんにお願いをして、ある準備を始めました。










JR駅商店街にある、『日々平穏』 とス−パ− 『サトウ』 で材料を調達します。

そして予め連絡してあった、放浪の鉄人 『スバル』(改造車で撫子区内を彷徨う、何でも商売人)から調味料を入手します。

娘さんであり、ヒカルさんと同級生だった、昴・亮子(スバル・リョ−コ)さんが、わざわざ 『撫子荘』 まで

バイク便で持ってきてくれたのです。

その後セイヤさんの家の台所と食器を借りて……彼女のための食事を作りました…

出来上がったら試食です。 手伝ってくれた人みんなが集まり、セイヤさんの家で昼食会となりました。



ボクとセイヤさんは、そこから抜け出して、彼女が寝ている部屋へ向かいます。

部屋の中は、窓とドアを閉めると外の騒音が殆ど入りません。

セイヤさん自慢の 『撫子荘』 の性能の一つだそうです。(笑)



寝ている彼女に食事をもって近づくと、丁度彼女も目を覚ましたようです。

おそらく初めて口にするその料理を、彼女は不思議そうな顔をして、食べてくれました。



…美味しい…です…

豆乳に秘伝の"だしあん"をかけて薬味を入れた、和風&中華風のス−プ。

彼女の元気な姿を見たのは、もしかしてこれが初めてなのかもしれません。

無表情な所は変わらないのですが、僅かに異なる反応が見えるのです。

その外にも消化にいいものを見繕って用意した食事を、みんな奇麗に食べてくれました。


…食欲が出てきたのならば、もう大丈夫ですね♪…



しばらくして、彼女が落ちついた頃を見計らうようにしたのか、セイヤさんがそっと彼女に声をかけました。


「大きくなったな…ルリルリ…」

…?…


セイヤさんの言葉。 とても柔らかくて、暖かみがあります。

突然自分の事を言われたのかどうか解らず、しばらくキョトンとしていますが…?



…ウリバタケ…の…おじさん…?


ルリさん……目を大きくして驚いていました…

どうやら、セイヤさんと彼女は面識があったようです。

二人ともなにやら、訳ありの雰囲気…


…この先の展開をボクは、スゴ〜ク期待していたのに…





「バタンッ…づかづかづか…ハッ!!……な…な・なんでぇ〜

あたしのカイトちゃん(仔犬)が、お・オンナ?を部屋に引きづりこんでいるなんてぇ〜〜信じらんないっ!!!」


…おまえ(ユキナ)さん、いきなりいう言葉が、酔っ払ったセイヤさんとおんなじかいっ!!…


「あら…まぁ…、お邪魔だったかしら…?」

ユキナちゃんの後ろから覗きこんでいる、ミナトさん……帰りの予定は明日のはずでは!?…


「むこうで大雨に降られたから、中止して帰ってきたんだけど…

…もしかしたらユキナが振られて、こっちも血の雨になるの? や〜ねぇ♪」


…ミナトさん…… お願いですから、ちゃんとした日本語で話をしてください…(涙)





せっかくボクの部屋で、ロマンチックになりかけた雰囲気が、台風コンビの登場で突然一気に崩れてしまう。

こうなると、いつもの 『撫子荘』 の宴会モ−ド(お決まりコ−ス)となってしまうのです。 …トホホ…



そんな中でも…彼女はいたって無表情な反応で…いつも通りの彼女に戻ったみたいです。


…確かにこの雰囲気って、学校とかわらないもんなぁ…


…でも、何か呟いてはいたようですが?



本当に騒がしくて、ゴメンね…星野さん。



『 ルリ 』 でいいです…



その瞬間、辺りは一瞬にして沈黙し、皆一斉にボクに注目する。



…うぅ…年下の女の子の名前を "〜さん" で呼ぶのは変だし…

…って、今まで名字を "〜さん" で呼んでいたんだっけ…う〜ん、なんか…名前だと、いいづらいなぁ…

…でも…いくらなんでも、いきなり "呼び捨て" にはできません
…そう、できれば言いたくない…



そして…しばらく考えてから…ようやくボクは、彼女にこう言いました。


…じゃあ、… 『ルリちゃん』 …って、呼ばせてもらう…ね…?

…べつに…いいですけど…


それを聞いて、ホッとしたボク。

おもわずボクは、照れ隠しで彼女に微笑みかけてしまいました。

彼女は呼び方に納得してくれたみたいで、顔をうつむかせて頬をうすく染めています…?





しばらくすると、彼女は顔を上げてボクの黒い瞳をみつめながら、"願い事" をするような感じで…



…あの…では、私…ここにいても…いい…でしょうか?…



あまりにも突拍子もない言葉を、口にする…



…へっ!?…



一瞬自分の耳を疑ってしまったボク。


聞き返そうにも、ルリちゃんのおびえた視線?から目を離すことが、おもわずできなくなっていたのでした。



…あ…まずい…このままだと…いつもの… "妄想" モ−ド…が…



当然、ルリちゃんのその "とんでもない" 爆弾発言は、その場にいた全員の頭に一瞬…!? を与えた…はず?





だけど、お祭り好きな 『撫子荘』 住人のみんなにとって、ルリちゃんの存在とこの発言は……





……彼等のたくましき野次馬精神を覚醒させるとともに、きっと意外な展開をみせていくに違いないのだろう…





……ボクは、ただ……いつしか呆然として……もしかしてまだ今も夢をみているのだろうか……






――― 果たして、『撫子荘』 は、このまま新しい住人を迎えることとなってしまうのだろうか ??? ―――










…………






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