撫子荘』 三号室




〜 『再会』 は突然に・・・ 〜





桜舞う季節に 『撫子学園』 へ入学してから、いろいろな人との出会いがあった。

ボクは、憧れていた学園生活に胸が膨らんだ。

昔のボクとは、明らかに違う。

それは、予想以上に、楽しい毎日。

そしてなによりも、夢が一つかなったことが嬉しかった。





「ラ−メン二丁に、チャ−ハンできたよっ!!」

はいっ! あっ、ホウメイさん。 3番テ−ブル、餃子1、追加入ります!

「あいよっ! おや? お帰り、ミカコ。 着替えたら、カイトと交代してやりなっ!」

「うん、わかったよ〜 カイトくん、ちょっとまっててね♪」



定食屋 『日々平穏



この町がゴ−ルデンウィ−クに入って人通りが少なくなってきても、

夕食時のこの店は、常連のお客も含めて、相変わらずの忙しさとなります。

JR駅商店街にある大衆食堂。

和・洋・中・と、メニュ−の数の多さもあるけど、その味が確かなモノだと知られているからです。

李・宝明(リ・ホウメイ)。 年齢不明。 女性ながらもホウメイさんが、この店の主です。

若くして旦那さんを亡くし、残された五人の娘を女手一つで育てて来た、この町では有名な人です。

ホウメイさんとセイヤさんは、昔からのおたがい様同士、という仲だそうです。

ボクが住んでいる 『撫子荘』 からも、そう遠くではないし、

それもあって、ボクはこの町にある中学校に転校してきてから、ちょくちょくお店のお手伝いをしています。

部屋の家賃はセイヤさんの好意でほとんど無料ですが、せめて生活費と雑費くらいは、

自分で稼いだお金で賄いたいと思ったからです。

あんまり無駄使いをしなかったおかげか、それとも節約術が上達したのか、

最近、ようやく自分が自由に使えるお金に余裕が出来てきました。



「カイトく〜ん。 おっ待たせ♪」


末娘の美佳子(ミカコ)ちゃん(13歳)が着替え終わったようなので、今日のボクは、仕事はもうあがりです。

おさげ髪のおダンゴ頭と彼女の喋りかたにはまだ幼さが残るけど、中等部の女子一年生です。


今日の部活は、結構遅かったんだね。 ミカコちゃん。

もう夜の八時は過ぎています。 この店がJR駅から近くにあっても、女の子の一人歩きは危険です。


「いぢわる〜な先輩のせいで、居残り掃除だったの。 ぐすん。 ひどいでしょ!」


「あんたが、悪いのよ! 部室の備品を転んで、ばらまいちゃったんだからね!」


演技で泣いていたミカコちゃんに、追加オ−ダ−を運ぶ三女の順子(ジュンコ)ちゃん(14歳)が言い返した。

ジュンコちゃんは髪をボブカットにして、ちょっとボ−イッシュな感じの子。

ミカコちゃんとは部活が同じなので、三年生の先輩、一年生の後輩となります。


…ミカコちゃん、ちょっとドジだからなぁ…


「しかたないじゃないのぉ〜、あんな重いのをもたせるなんてぇ〜、ぶつぶつ…」


「ほらほら、いつまでもグズッてないで、これを3番にもってくの!」


長女の小百合(サユリ)さん(17歳)にいわれて、ミカコちゃんはようやく仕事の手伝いを始めます。


…さすがはサユリさん…


高等部の三年生になって、落ち着いた雰囲気をもつ、黒髪ポニ−テ−ルのお姉さんです。


「あっ、カイトさん。 これ、今日の分ね!」


厨房にいたはずの四女の恵里(エリ)ちゃん(14歳)が側に来て、いつもの袋を、ボクに差し出している。

ジュンコちゃんとは双子で中等部三年生。

茶色髪をポニ−テ−ルにしている彼女が、不意に間近で話かけてきたので、

ボクはつい躊躇してしまう。


あ…どうもありがとう…です。


「くすくす。 どういたしまして♪」


笑われてしまった。 ちょっと照れてしまいます。


「今度は私の番だからね、カイト君!」


厨房の奥で、次女の晴美(ハルミ)さん(16歳)が、注文の料理を作りながら声だけ掛けて来ました。

髪を三つ編みにしているハルミさん。 高等部二年生になって、料理の腕がずいぶんと上達しました。


…姉妹みんなそろって、『撫子学園』 に通っているんだよなぁ…


ボ−ッとしていたボク。



そこに、作業を中断したホウメイさんが面白そうな顔をして会話に入ってきます。

「まあ、娘達の味見役として、お願いするよ。 ふふ。(ニヤリ)」

…ホウメイさん、それって一体、どういう…


彼女の言い方があまりにも不自然なので、口には出せず、なんとなく顔が赤くなってしまったボク…


「「「「「 きゃ―――っ!! 」」」」」


ホウメイさんの娘さん達(ホウメイ・ガ−ルズ)が、声を揃えて、ボクに注目する。

…彼女たちはボクをペットの仔犬のようだと、みんなそろって、以前言っていた…(涙)


「なにを赤くなっているんだい? おまえさんの夕食を、娘の弁当で賄えれば、おたがいさまだろ?」

ホウメイさんは、しれっと言った。

あははは…そうですね。 いつもみんなにからかわれているから、つい…その…

「なんなら、このまま家のになってもいいんだよ! …あっははは!!」

…あ、ホウメイさん、それズルいです…


う〜っ、なめてもらっちゃ〜ぁ困ります。 今度はこちらの反撃です!

サブロウタさんじゃあるまいし、…ボクは一人(=独身)で充分なんです!!


「「「「「 きゃ―――っ!! 」」」」」


再びホウメイ・ガ−ルズの悲鳴が店に響きわたる。

一人いればいいってことは…」

「もしかして…」

「私達の中に…」

「え―――っ!」

「それって、?…♪」



…?…!…しまった…やぶ蛇だった! やはり、年の功には勝てな……

""グワァ〜〜〜ンッ!!!""



「失礼だね! あたしゃこれでもまだ "ピィ〜〜ッ" 歳なんだよ!!(私はまだピチピチなのさ!)」

ボクが最後まで言い終わる前に、ホウメイさんのもつ中華鍋が、ボクの頭頂部に炸裂した!!

すごく痛い…しかも熱いです。(涙)


…これでまたボクは、小人さんになっちゃうのかな…!?



そこでお客様から盛大なる拍手が湧き起こる。


〜 これが、定食屋 『日々平穏』 の名物イベントだそうです。 〜



…それにしてもホウメイさん、毎回言っている歳が違います。 …しかも、若くなってきてるし…


「お疲れサン! またよろしくね。(勝利)」


ホウメイさんに勝ち誇られてしまっては、ボクには尻尾をまるめて帰るしか術はなかった…





仕事が終わり、遅い夕食用の手作り弁当をもらったボクは、

用意してあった着替え入りバッグの中にそれを入れて、

自転車に乗ると、そのまま帰り道にある銭湯に寄っていきます。





時乃湯



「いらっしゃいませ…ああ、快人くん。 今日もお疲れ様です。(癒し系)」

いつものように暖簾を潜ると、そこには、いつもの笑顔で暖かく迎えてくれる人がいます。


和人くん。 ど−もです。(和み)

番台に座った小学校時代の友人に、いつものようにお金を払って挨拶をします。

入浴料が安くて、本当に助かります。


「あ〜、かいとちゃん。 きょうもきてくれたんだねぇ!(喜)」

お風呂場からちょこちょことかわいらしく歩いて来た金髪の女の子が、嬉しそうな声をあげます。


ワるきゅ−レちゃん、こんばんは。 お仕事かい?(可愛い妹)

「うん! わるちゃん、きょうもげんきに、かずとのおてつだいするんだぁ〜 えっへん♪(えばるポ〜ズ)」

えらいんだね。 がんばってね。(柔和)

「うんっ!!(愛らしい笑顔)」



本当にここは、いいところです。


…お湯はきもちいいし…


冷えた心を癒してくれます。





お風呂から出たら、やはり一本。

最近の定番は 『コ−ヒ−牛乳』 です。

前は 『大正牛乳』 を愛飲していましたが、一向に成長する余地がみられず、

逆にお腹を壊してしまったため控えることにしました。

最近ボクは密かに 『かふぇいん』 を摂取すれば大人になれる…と信じています。

珈琲を飲む九十九さんの姿が、格好良いんです! その姿に憧れています。

そして飲む時は腰に手を…って…これは、セイヤさんに教わりました。


… 〜お約束〜 というそうですが…?





さて、心も身体も暖まった所で、『撫子荘』 へ…って、しまった!

いつのまにか雨が降って来ています。

…結構、降っているなぁ…



どうしようかと、『時乃湯』 前で立ち往生をしていたら、

店の奥から、まるで天女のような金髪の女性が出て来ました。


「あのぅ、快人さん。 良かったらこれを使ってください。(麗しく登場)」

あっ、ワルキュ−レさん。 いいんですか?(その姿にちょっとドキッ!)

「ええ。 いつもありがとうございます。(女神の笑顔)」


そういって彼女は、ボクに白い一本の傘を持って来てくれたんです。

まるで天女のようで…そして優しい彼女は、和人くんの婚約者です。


…それは、今のボクにとって…もうひとつの大切な……でもあるんですけどね…(恥)



傘と交換で、乗ってきた自転車を彼女にお願いしたボクは、

『時乃湯』 の方の心遣いに感謝して、心温まる想いを胸に抱きつつ、

我が家 『撫子荘』 への帰途につくのです。





これがボクの穏やかな日常です。 …この後に宴会の予定がなければ…





いつもは賑やかな 『撫子荘』。 でも今日から春の大型連休です!

白鳥さんは有給を使って、久し振りにユキナちゃんと実家に帰りました。

ミナトさんは、修学旅行の下見(無料)だといって、朝から出かけてしまったし、

ヒカルさんはイベントで泊り込みだといっていたなぁ。

セイヤさんは、オリエさんにいわれて今夜は町内会の集まりに…きっと飲み会ですね。

ちなみに、隣町に住むサブロウタさんは、彼女とデ−トだといっていた。 多分、かけもちでしょう。 彼の場合。

明日の仕事は完全OFFだし、久しぶりに…まぁ、 特に予定はないので…寝てすごしましょうか…


…今夜は久しぶりに静かな夜が過ごせますね…



季節はまだ五月だというのに、どしゃ降りの雨の中を歩いています。

このままだと家に辿り着くのに、いつもより時間がかかりそうです。

だから、ボ−っとしながら…歩いています。

お風呂に入り、気持が落ち着いたおかげで、ずっと今まで考えていること。



入学してからあまり会話を交したことがないので、気になっている事

それは、同じクラスメ−トでみんなの話題となっている人

ボクの前の席に座っている、一人の少女




星野 瑠璃



彼女の(その見た目と年齢に釣合わない)理知的な話し方は、彼女の並外れた優秀さを物語っている。

いつも冷静でいて、淡々と、丁寧な口調で、クラス委員の仕事も的確に処理をしている。

サブロウタさんはボクの予想通り、彼女を口説くのが仕事のようです。(笑)

それを上手にあしらっている姿をみて、みんなの印象もどんどん良くなっています。

…まるで、コント…


身体が弱く、あまり激しい運動ができないそうで、体育の授業はほとんど見学。

…だから色白なのかな?…


休み時間になると、教室からいなくなってしまう事が多く、

話し掛けられることはあっても、自分から進んで他の人と話す所をあまり見た事がない。

…友達、できたのかな?…何処でご飯を食べているんだろう?…



その謎が少し解けたのは、入学してからしばらくして、ユリカさんと昼休みに偶然会った時。

星野さんと一緒にご飯を食べていたので、ユリカさんがボクのことを改めて紹介してくれました。

その時の彼女、初めて驚き声を口にしたもんだから…それが見れてボクもすごくビックリ!

しかも、その後に聞いた彼女の家のことで、更なるビックリ!!



後でサブロウタさんから聞いたこと。


入学式の直後、密かに彼女のファンクラブができたそうだ

日本人には無い容姿とその魅力…

ク−ルでキュ−ト 知的でミステリアス なかなか人に媚びないのが良い!

いつも冷めた表情…だがしかし、果たして彼女は一体誰のために笑顔を見せてくれるのかっ!?


年上の人からは、「守ってあげたい少女」 !

年下の人からは、「お人形みたいな少女」 !



"瑠璃色の妖精"


…とか、いろいろと囁かれているそうです。



彼女は、紳士(世間では奇人)で有名な当主が住む大財閥、『星野家』 の一人娘。

彼女の家は、いわゆる撫子区の名所としても、よく知られているのです。

高級車での送り迎えもしばしば目撃されています。

学園での人望があって家柄も良いユリカさんと、いつも一緒にいるのも納得できます。

まさしく、『お嬢様』 で 『お姫様』 という状況。

そんな彼女の人気に一層拍車がかかったのはいうまでもありません。

その最たる事実が 『新春ミスグランド撫子』 の初受賞。


…外国人で大和撫子…?


そして 『新春ミス撫子祭り』 が終わると日に日に増えてゆく(彼女は非公認の)ファンクラブの参加者。

普通ならそこで、喜んだり、恥じらったり、戸惑ったりするのに、それでも彼女の反応は変わらない。

あまり関心がなさそうに思える。

ボクにはよく解らなかったけど、「そこがまた良いんじゃねぇ〜か!」 とサブロウタさんは言っていました。


でも、「仔犬には一生解るまい!(ニヤ)」 と次いでに言ったコトバは、明らかなボクへの侮辱です。

…貴方と違って、ボクは、ロリ○ンではありませんから…(抵抗)



でも、『新春ミスグランド撫子』 に選ばれてからの彼女、

人気の上昇とは逆に、日に日に元気がないような気がする…





寂しそうな背中

丁寧でいて、あまり愛想のない口調

人を安易に近づけさせない、家柄と容姿

人と関わりあうことを極力避けようとする態度

ユリカさんといる時の顔

アキト先輩もいた時の表情




…あの時見えた、彼女の涙…



普段から態度があまり変わらない、そんな彼女の異変に気づいたのは、ごく一部の人だった。



アキト先輩が、そんな彼女の様子を心配していた。

ジュンさんは、みんなから注目されてナ−バスになったんだよと、言う。

ユリカさんは、気分転換にみんなで何処かに遊びに行こう! と言っていた。

おかげでサブロウタさんもユリカさんと一緒に同行すると言っていましたね。


…ユリカさんは、アキト先輩の恋人ですよ…まったく…


そしてその時の星野さんの表情は……困惑していたような?…





降りしきる雨の中、そんなことを考えていたら、何時の間にかボクは家に辿り着いていた。


そして部屋に戻るため、階段を昇ろうとした…


不意に、階段の下で、うずくまっている人影に……ボクは気づいた…










「…星野…さん?…」










…ボクの意識は、幻を生み出してしまったのだろうか…



――― まだ五月だというのに、激しく降りしきる雨の音が、やけに遠くに感じられた ―――







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