機動戦艦ナデシコ 異伝 風の行方
〜初期プロット〜









腕の中の温もりは、消えゆく蝋燭のように弱々しかった。

絶え間なく、流れ出る紅い血の奔流。

血が服を染め、血が床を染め上げる。

紅くて、朱くて、赤い血の色に。

認めたくない、理解したくない。

けれども、どれほど拒否しようが本能が理解していた。

命が、消えゆく様を……

僕にできるのは、震える体で抱きしめてやることだけだった。








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                       異伝

                      風の行方

                     初期プロット



最終話「想い」



震えている。

寒さからではない。

心からの、恐怖。

失う事への、恐怖。

再び、失う事への、圧倒的な恐怖。

「……ルリ……」

こみ上げる恐怖を噛み潰し、震える声で言葉を紡ぐ。

数カ所から流れ出る血は、既に限界を越えている。

白く、まるで白絹のようだった肌は冷たく、熱を失っている。

それでも、澄み切った金色の瞳はじっと僕を見つめ、何かを必死に訴えている。

「〜〜っ、ごふっ」

何かを言おうとしても、言葉にならずにただ血塊が溢れ出るのみ。

「……もう何も言わなくていい」

そう言い放ったとき、ぽつんと震える腕に何かの感触があった。

それが何なのか、一瞬わからなかった。

それは、涙。

いつからか、溢れ出している、自分の涙。

泣いている。

僕が泣いている事が信じられなかった。

僕に涙などありはしない。

僕は、人ではないのだから。

しかし、そんなことはどうでもよかった。

彼女の命が消えようとしている事に比べれば。

その時、頬に彼女の手が触れた。

血まみれの、震えた手は悲しくなるほど、小さく、冷たかった。

そして、頬に添えられた手に僕の手を重ねたとき、それは起こった。

それは、情報という名の感情。

狂おしい程の感情。

ナノマシンの共鳴による、共有。







                  「ごめんなさい」


「貴方が何を考えているのか私にはわかりません」「違います、私はただあのひとを待っているだけです」「それが貴方の生き方ですか、それではまるで道化です」「いつか、いつの日か、また会えるのでしょうか」「生きている事が、本当に幸せな事なのでしょうか」「私には、何の価値も無い」「今の私はただの愛玩道具でしかありえないんです」「毎日、祈っていました。この日々が、消えてしまえと」


                  「ごめんなさい」
 

「それがどうかしましたか?私には何の価値も無いことです」「劣情をぶつけられても、何も感じなくなりました。ただそれだけです」「そこにあるのは、ただの哀れで矮小な負け犬だけです」「この傷だけは、消えないで」「たとえ、貴方が全てを捨て去ったとしても、私を変えることなどできません」「貴方は強い人です。けれども、全ての人が貴方のように強くはなることに無邪気なのではありません」



                  「ごめんなさい」


「私に死ぬことなど許されはしないんです」「歪んだ思考、歪んだ嗜好、どれもが狂おしい程に憎いんです」「造られた命であること、それは造られた花がただ人に見られるだけの存在である事と何の違いがあるのでしょう」


                  「ごめんなさい」


「私はただ、貴方と二人で居たかった」「それがどれほど罪深い夢だとしても、私は傍にいたかった」


                  「ごめんなさい」













                「貴方を愛して、ごめんなさい」















それは刹那だったのかもしれない。

それは永劫だったのかもしれない。

しかし、それは確実に……彼女の全てだった。

そこに言葉は存在しない。

そこで言葉は意味しない。

妖精が、白い堕天使の元へ還っていった。

ただ、それだけだった。












少女は、とめどなく涙を流す青年の頬を愛おしげに撫でた。

涙を流しながら、本当に愛おしげに撫でていた。

聞こえるのは、漏れだした青年の嗚咽だけ。

それは、まるで泣いている子供をあやしているようだった。

そして、少女は、声にならぬ声で最後の言葉を紡いだ。

「〜〜〜〜〜〜〜」

そこに音は無かった。

しかし、確実に青年に伝わっていた。

それは、幸せな事だったのか、哀しい事だったのか、誰にもわからなかった。



灯火が……消えていく。



一体どれほど時が経ったのだろう。

二人は、そのままだった。

少女の貌は、哀れなほど安らかだった。

青年は、震えていた。

「……あぁ……ああぁ……」

嗚咽が溢れ出し、慟哭となる。

「うぅぅあぅあぅあぁうああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

泣きながら、叫んだ。

ただ、叫んだ。

ただ、それだけだった。




          そして……この瞬間から、世界は破滅へと歩んでいく……











以上、初期プロット最終話でした〜♪

いやぁ、最も初期の最終話を今回お蔵出ししてみたのですが、やっぱりダークですねぇ♪(爆)

気づけばちょっとした短編位の分量になっていることにも驚いていたりするんですけどね(苦笑)

お蔵入りした理由といえば、いくらなんでも暗すぎるだろう、という内なる理性の声が働いたのと、

流石にルリルリ殺してしまったら、私が神様に殺される(本当)という恐怖からなのにゃ。

本当に初期なので、ルナ・エヴァンやらミカさんやらジュピターズやらツヴァイやらのオリキャラ連中

は全く影も形もなかったりするのにゃ(笑)

……え?一人多い?

……。

……気にしない♪気にしない♪(核爆)

さて、いい加減に第7話を書かなきゃ皆さんからお叱りを受けそうなのですが……。

……予定は未定……いい言葉だにゃ♪(恥知らず)

ではでは星風でした〜。






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