家庭料理
ザァァァァァァ。
部屋の外からはこの季節の特徴である長雨が続いていた。
この季節には仕方のないものだがせっかくの休日に雨が降るのは少しもったいない気がする。
しかも今日の休日は1月ぶりの休日だったりもする。
しかし決してルリの勤める宇宙軍が休日を設けていないわけではない。
これも宇宙の問題児ことカイトが色々問題を起こすからだったりする。
「まったく・・・。少しはお詫びの気持ちをみしてくれたりはしないんですか?カイトさん」
その呟きもいままで何度も呟いているので既にあきらめの境地だったりもする。
ところが神様は一生懸命生きている人のところに幸運をもたらしてくれた。
突然電話が鳴る。
ルリは立ち上がり自分のすぐ後ろにあった電話を取る。
「はい。星野で」
『おーー。やっぱりいたね。うんオレオレ』
「『オレ』ではわかりません。もしかして『オレオレ』さんでいらっしゃいますか?」
ルリ本人も気付かないうちに冷たい声を出す
『わお。冷たいな。もしかしてこのまえ命令無視した事怒ってたりする?」
「その後の処理にどれだけ私が苦労したか知っています?」
『だからそのお詫びに食事しない』
ルリはいそいそと着替えを始めていた。
あの後どのような応対をして電話を終えてかは余り覚えていない。
なにせあのカイトが自分を食事に誘った事が初めてだからだ。
今の時間は5時半。
ルリの卓越した頭脳によるとたぶんこの時間における食事の誘いと言えば夕食の誘いだろう。
お詫びといっていたので少し豪勢な、しかしカイトの給料を考えるとリーズナブルなイタリアンのお店だろう。
いくらなんでも大衆食堂やファーストフードはない。
とルリは考えた。
しかし相手は宇宙の奇人。
そうは甘くはなかった。
ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。ピーポン。
ドンドン。ドンドン。ドンドン。ドンドン。ドンドン。ドンドン。ドンドン。ドンドン。ドンドン。
「ねぇ。ルリちゃんになーいの?」
子供のようにチャイムとノックを連打する。
「そんなに叩かなくても気付きます」
と言いながらドアを開けるルリ。
「うひぃー。すげー雨だったよー」
そこにはよれよれのTシャツに洗いざらしのジーパン右手には500円のビニール傘というどう考えても外向きではない服装のカイトがそこにいた。
しかしその服装の中でも目立つものがひとつあった。
それは左手に持ったパンパンに膨れ上がったビニール袋であった。
疑問に思ったルリは即座にカイトに問う。
「何ですかその袋は?」
「食材」
沈黙。
「どういうことですか?」
「いやだからさ『食事をしよう』って言わなかったけ?アレ俺ぼけたかな?」
ルリの聡明な頭はここで全てに気付いた。
「....カイトさんの頭はぼけてなんかいませんよ」
「あーよかった。そうだよね、あはははは」
(根本から駄目なんですね・・・。カイトさんの思考回路は...)
つまりカイトは『食事をしよう』と言う言葉を食材は持っていくから料理を作れという意味で使い、一方のルリは外食と取ったわけである。
「まぁカイトさんが風邪を引くとは思えませんがどうぞ中へ入ってください」
「お邪魔しマース。ってなんで俺は風邪引かないんだろうね」
(言うまでもなく『バカ』だからとしか言いようがないんですけどね)
カイトはツカツカと我が家のようにルリの部屋に入っていく。
「じゃここに食材を置くからね」
と言うとカイトは居間の方へ行こうとした。
「手伝わない気ですか?カイトさん」
「へ?男子厨房に入らずって奴かな」
既に料理の準備のために髪を後ろにまとめエプロンを身に着けたルリはあっさりと
「つまりカイトサンは大根飯でいいということですか?」
「わかったよ。それでは買ってきた食材を用意しよう。ちなみにルリちゃんのところの冷蔵庫にあるのは買わなかったからね」
カイトの言葉の中にあった不自然な点に気付くルリ。
「ちょっと待ってください。なんでカイトさんが私の部屋の冷蔵庫の中身を知っているんですか?」
「なんでって言っても・・・。よく夜中にお腹が減るとルリちゃんの冷蔵庫をあさっていたから」
「ちょっと待ってください!なんで食べ物より私を食べ...」
自分がものすごい発言をしている事に気付いて顔が真っ赤になるルリ。
チラリとカイトの方に視線をやるルリ。
むしゃ、むしゃ。
カイトは冷蔵庫にあったシュークリームを盗み食いをしていた。
「・・・・・・」
なんか世の中の理不尽を怒りたくなるルリ。
「ふぅー。腹ごしらえ終了。あれ。なんか怒ってない?」
「何でもありません。早く食材を出してください!」
「包丁を持ちながらその台詞を言うとなんか追いはぎみたいだね」
失礼な事言いながらビニール袋の中から買ってきた食材を出す。
がさごそ。がさごさ。
「ほい。出しました」
机の上にはカイトの持ってきた食材が並ぶ。
しかしルリはカイトに冷たい視線を送る。
「なんですかこれは?」
ルリは机の上の食材を1つとってカイトに突きつける。
「あーそれは味菜だね」
「漢字が違います。紫陽花です!食べられません!というかこれそこの花壇に植えられている奴じゃないですか!」
そう紫色のキャベツみたいなのをカイトは取ってきていた。
「そーなんだ。へー勉強になるな」
「全く・・・。早く戻してきてください」
「はーい」
どてどてどて、ばたん。
カイトが部屋を出て行くとルリははぁーとため息をついた。
確かにカイトといると疲れる。
けどその疲れがいやかと聞かれるとそうとも言えない。
なんというかカイトがいるといないとでは充実感と言うものが違う。
そんなこんなで食事が始まった。
結局カイトは料理を手伝わなかった。
なぜかは言わなくても分かるだろう。
「うんうん。けっこうおいしいね。ルリちゃん料理うまくなったね」
既にカイトはご飯を7杯目。
もちろんどんぶりで。
このように食べてもらうと作ったルリも嬉しい。
すこしだけ口元が緩むルリ。
「この味を僕の家庭の味にしたいね」
「カイトさん・・・それって」
カイトの言った言葉の意味はプロボーズとも取れる。
「へっ?」
「やっぱりカイトさんがそんな気の利いた事いえるわけありませんよね」
そんなこんなでいつもの食事は続く。
「うん、美味しかったよ。それじゃまた明日」
「はい。絶対遅刻はしないでくださいね」
「ははは。信用ないね俺」
「あるとおもっているんですか?」
「これ以上いると説教されそう。撤退!」
カイトの走る姿を見送ってルリは部屋に入る。
「さてお風呂に入って寝ましょう」
自分が独り言を言っている事に気付く。
(寂しいんでしょうか私は...)
時々ルリは思う。
自分は弱くなったかもしれないと。
いつも肝心なところでカイトに頼っている気がする。
そのことを一度カイトに聞いてみたいと思っている。
けどもしカイトに役に立っていないと言われたらとても怖いのでずっと聞けないでいた。
そこまで考えてふと我にかえった。
(本当バカですね私は・・・)
いそいそと風呂場にいって浴槽に水を張る。
そうしてルリの休日は終わった。
「うーん意外とプロポーズってのはうまくいかないね」
カイトの手には安物だが指輪があった。
「はー。勇気がないねー俺は」
後書きらしき物:うぃー。なぜかこんなものが出来てました。びっくり。