赤貧探偵事務所(?)R&K
とある場所にあるマンションの一室。そこに一人の少年と少女がいた。少年の方は窓際にある拾ってきたスチール製のデスクにだらしなく足を掛けている。もう一人の少女はというと部屋の中央で何かをこしらえている。
「おーいルリちゃん。ナニを作ってるんですか?」
だらしないカッコと服装でグデーとしているように見えるがこの少年かなりの美形だ。しかもカワイイ方の。
「ナニを作っているのじゃありません。カイトさんと私の夕食のメニューですよ」
振り返りもせずに答える。
「全く近頃所帯じみてきましたね。あの電子の妖精がえんどう豆のさやとりとは」
「そりゃ所帯じみるのも当たり前です。お金がないんですから」
ハァとため息をついて作業に戻る。夕日が部屋を赤くする。ふと外を見てボーっとし始めるカイト。
「綺麗だねー。夕日」
独り言のように呟く。
「そうですね」
ルリも少しだけ
嬉しそうに呟く。
そこには間違いなく幸せな時間があった。
ところで何故歴戦の勇者とも言っていい二人がこんな場所にいるかといえばそれなりの理由があった。火星の後継者の事件の後、カイトとルリは休暇をとっていた。あの事件には色々悲しいことがあった。そのことで心因的ストレスを感じていたルリをカイトが慮って無理やり休ませたのだ。そしてカイトが取った休暇プランとしては安いマンションでも借りてゆっくりしようとのことだった。之からまた忙しくなるのだから・・・。
夕食の時間。大皿に持ったメインの料理が野菜炒め、それにトマトとレタスとキュウリの簡単なサラダにジャガイモとタマネギのお味噌汁。それに付け加えてカイトの側だけに納豆が用意されていた。
「カイトさん。ご飯が出来ましたよ」
テレビに見ていたカイトは「うーーん」と気のない返事を返した。
「早くして下さい。さめてしまいますよ」
子供をなだめるように注意するとようやくテレビから目を離して食卓を向くカイト。
「いただきマース」
とカイト。
「いただきます」
とルリ。
食卓には他愛もない話で盛り上がる
「なんだろう?」
と呟きながらカイトはパソコンの前に向かった。
「えーと、何々。ネルガルからだ。なんかいやな予感がするねー。ね、ルリちゃん?」
いつの間にか後ろに回りこんでいるルリに話しかける。
「そうですね。あの会長腹黒いですから。それより早く開いてください」
「はいはいっと」
そういってメールを開く。
「あーホシノ君にカイト君お久しぶり。落ち目の腹黒の会長だよ。いや君たちにちょっとした頼みごとがあるんだ。いや確かに君たちには断る権利がある。けどこれは君たちにとっても有益な話になると思うよ。受けてくれるなら明日の10時渋谷のモアイ像来てもらえるかな。時間厳守だよ。じゃーね」
メールを読み終わって互いに顔を見合わせる。
「どう思います?カイトさん」
「はっきし言って怪しいと思うよ。差出人が差出人だしね。けど僕らに有利なこともあるって言ってるし。そうゆう事に関しては信用できる思うよ」
もない話が上る。幼少の頃の時代をあまり人との会話に興じたことのなかった二人にはこの時間が今一番大切なものであった。しかしそんな幸せと確実に呼ぶことの出来る時間を消し去るものが響いた。スチールデスクの上におかれたパソコンがメールの到着を告げる声を出した。ちなみにだがその声はいまアイドルで声優で売り出し中のとある女性の声であった。
「はいはいっと」
一人呟きながらパソコンに向かう。
「えーと何何・・・。げぇ、ネルガルの会長からだよ。あの人いやなことばっかり押し付けるだもん」
いつの間にかカイトの後ろに来ているルリに話しかける。
「取り合えず観てみましょう」
「そうだねぇー。ポチィとな」
ヴィーンと音を立ててパソコンがヴィジュアルメール(立体画像&音声型メール)を起動し始める。
「やぁやぁ、お久振り・・・ってほどでもないね。落ち目の会長だけに余り時間がないから要件だけさっさと伝えるよ。僕の知り合いにまあ会ってみれば分かると思うけど困っている人がいるんだ。本当だったら僕が助けてあげたいんだけどねはっきりいってこの事件は君たちの方が向いていると思った
んだ。というわけで明日の午後5時にモアイ像の前に二人で来てくれると嬉しいな。それじゃ」
ぷつんという音とともに画面が消える。
「うーん。どうしようかルリちゃん」
椅子に座りながら背を曲げてルリのほうに目をやる。
「そうですね。近頃何もしていませんし。休暇もあと2週間ですからそろそろ体と頭を動かしておきましょう」
「そうだねー。食って寝てばっかだったら牛になっちゃうもんねー」
何気なく言うカイトであったが体重はこと女性に関しては禁忌である。
「もしかしてそれは近頃体重が増えてきたことに対する嫌味ですか?」
少し顔に怒気をはらんでカイトの首に腕を回して顔の横から睨みつける。その様子でようやく自分が入ってはいけない場所に気づかずに入ってしまったことに気づく。そして慌てて自分の弁護を開始する。
「いや、そりゃ毎日虎屋の羊羹を丸々一つ一人で食っていれば当たり前のような気が・・・」
「それは毎日夕方で一緒に虎屋の前を通るとカイトさんが買ってくれるんじゃないですか!」
「いやそれは羊羹を食べるルリちゃんが幸せそうだからさぁ、何度で
もあげたくなるんだよ」
早い話が猫に餌をあげて食べているのを観て楽しむようなものである。その回答にいささか不満を持ちながらもルリは怒気を和らげた。
「・・・。まぁそれなら仕方ありませんね。でも女性に体重の話をしたことの罰としてこれからは朝早く起きて一緒にジョギングに付き合ってもらいますね」