機動戦艦ナデシコ

『あの人』の最後の恋


その・いちのはなし:『ぼく』はなぜ戦うことになったのか



サセボドッグ内部


    唐突であるが彼は不自然であった。いや顔立ちは綺麗な方部類に入るし立ち振る舞いにも変な所はない。ナニが原因で彼を不自然としているのか。それは彼の年齢が10歳で、しかもここが戦うための艦の中であるからである。

その少年に女性、いや少女が話しかける。

「あの、カイトさん。そろそろこの船の乗組員の方々が来ますが」

少年はその声には顔を向けないで答える。

「そう。しかしあれですね。僕までこの艦に乗ることとなるとは。所長はなにをかんがえているんですかね、ルリ」

その声はほのかな温かみを含んだ声であった。

「それは・・・私には分かりません。私はただの機械との交渉役です」

自嘲気味に呟く。

「ルリ。そんな事を言ってはいけませんよ。あなたが唯の機械との交渉役であるわけがありません。あなた は私の最高の生徒ですよ」

先ほどから少年の体についていた『上司根性』を取り払ってほのかな優しさが滲み出てきた。

「私は地球最高のエージェント養成機関『超人類・超能力・超技術総合研究所』第2位教官カザマ・カイト。そしてあなたはホシノ研究室主席生徒であり私の直属の生徒です」

その答えに返事を返そうとした瞬間突如部屋のドアが開いた。プシュとドアが開いた音と同時に数人の男女が入ってきた。

「あれー、ここがブリッジなの。戦艦のブリッジってもっとこう戦う場所って感じがするんだと思ってたのよねー」

いかにも社長秘書といった感じのボディコンの女性が口を開く。

「そうですよね。ここ一流会社の待合ロビーって感じですね」

顔にそばかすを残しあどけなさを残した女性がその言葉に応じる。

「いやーそれはイメージ戦略というものでして。ネルガルとしても出来るだけ武器商人というイメージを華やかさに変えたいわけでして、はい」

眼鏡を掛けた中間管理職風の男が答える。

「あれ、あそこにいるかわいい坊やと女の子は誰。ミスター・ゴート」

ボディコン女性が後ろに立って いたむっつり顔の大男に尋ねる。

「彼らはSSS総合研究所の者だ」

「えー。SSSって言ったら世界最高峰の教育機関じゃないんですか。それが・・・」

そばかす女性が自分の考えを言い切る前に少年はその言葉をさえぎった。

「『それがあんなガキってわけがない』とでも言いたいんですか。無暗に年をとれば最高の人格と能力を持てるわけがありませんよ。オネーサン?」

多少自分を見た目だけで判断された事に怒りを感じて口を挟む。

「えっ・・・。そのごめんなさい・・・」

わけも分からず急に目の前の少年が大人顔負けの饒舌で自分に反論してきたことに戸惑いを感じてとっさに謝る。

「謝ってくれればいい。近頃はちゃんと謝れない人がいるからね」

そうしたそばかすの女性の態度に満足した様子の少年。

「それで自己紹介でも始めようか。プロスペクターさん」

急に眼鏡の男に話を振る少年。

「そうですね。ブッリジ要員も大体揃いましたし。せんえつながら私から自己紹介のほどを」

コホンと咳払いをして

「えー皆さんご存知の通りしがない管理職のプロスペクターです。 よろしくお願いします」

当たり障りのない自己紹介を終えるとボディコン女性が手を上げた

「はーい。次は私ね。私は操舵士のハルカ・ミナトよ。よろしくネ」

最後にウィンクをして言葉を終える。そうすると次はそばかす女性がかわいい声を出した。

「次は私ね。私はメグミ・レイナード。通信士よ。昔は声優やってだよ。知ってる?」

そのメグミの問いに少年少女に反応がないのを見ると

「あれ。やっぱり観てなかったか。残念」

そう言うと少し後ろに下がって次の自己紹介を待った。

「それでは私が次かな。私はゴート・ホーリー。作戦指揮官だ。よろしく頼む」

愛想のない軍隊のような自己紹介だった。そうするとブリッジ下方にいた少女がしゃべり始めた。

「私はホシノ・ルリです。SSS総合研究所・ホシノ部屋主席です。役職はオペレーターです。よろしくお願いします」

ぺこりとオジキして話を終える。最後の者に自動的に自己紹介を終えた視線が注がれる。

「うん?僕の番か。僕の名前はカザマ・カイト。所属はルリと同じSSS研究所。第二位教官をあそこではしていた。ここでの役 職は総合スキルワーカー。早い話が何でも屋って事らしい。ワンマンパイロットの兵器のパイロットもやるし、ブリッジの仕事もやるし、整備士もやるわけです」

さらりとすごいことを言う。事情を聞いてなかった者はポカーンと口を開いていた。

「カイト君ってすごいんだ」

ただただ自分の驚きを口にするミナト。

「ところでさ、ルリちゃんとカイト君って、いくつなの?」

メグミはさっきほどから自分の中にあった疑問を口にする。

「私は11歳です」

「僕は10歳だ」

2人とも何気なく答える

「えールリちゃんの方が年上なの!」

「私もカイト君の方が年上だと思ってたわ」

少しその反応を不思議に思ったのかカイトは

「あれ何故ですか?それに僕の方が身長低いじゃないですか」

と答えた。確かにカイトの身長はルリに比べて2Cmほど低い。そのカイトの反応を聞いた一同は

(あんたの態度がでかいんじゃ)

と思った。



それからしばらくの後カイトは一人で艦内の探索をしていた。(ルリはブリッジで艦の制御コンピューターとコンタクトを始めている)

「ふーむ。なかなかの艦じゃないか。改善の余地はいくらでもあるみたいだけどね」

「こらぁぁ。そこのガキ。勝手に入ってくるな。ここは大人の男の聖地だ」

いささか飽きた表情で「全く大人は外見でしか物事を判断することは出来ないんですかね」と自分だけに聞こえる声で呟いた。そしてツカツカと怒鳴った声の主のところへ行く。

「ふーむ、この兵器いやロボットとでも言えばいいのかな。姿勢制御はAMBACか」

外側から見て観察して出てきた推察を言う。その瞬間怒鳴っていた男の態度から困ったガキを相手にする者が消え代わりに同好の士を見つけたかのようになる。

「お、出来るな坊主」

「坊主じゃないですよ。カザマ・カイトです」

「お、言うね。俺はウリバタケ・セイヤだ。見ただけでこいつの姿勢制御のシステムを見破るとは。うんじゃこいつのメイン動力源はわかるか」

カイトは一度ロボットの方を振り返り

「核融合炉・・・ではないなそれだけじゃ今求められる水力は得られないはずだし・・・。対消滅炉がこんな小さな機体に搭載できるわけがない。ということは外部動力か。なるほどグラビトンビー ム=重力波による外部供給か!」

難しいパズルを解いたような顔は年相応の顔をしていた。その答えに大満足したのかウリバタケの顔には喜びが浮かんでいた。しかし同時にある単純な疑問が浮かんだ

「お前・・・何者なんだ?」

「ああ、私の役職ですか総合スキルワーカーとでも言っておきましょうかね。基本的に全ての部門に最高権限は与えられてはいる」

さらりともの凄い事を言っている。

「なるほどお前が話しに聞いていたやつか。けどこんな背のちっこいのは奴だったとは思いもつかなかったぜ」

「背が低いのは余計です」

「おっ、ワリーワリー。けどよ俺にこの辺のを好きにいじらせてくれよな」

「大丈夫ですよ。基本的にはブリッジの仕事がメインらしいからね。それに貴方の腕は信頼できるみたいだしね」

口の端を少し持ち上げてカイトは笑う。その笑みを見てウリバタケも二カッと笑う。

「全くオメーは生意気なガキだぜ」

普通だったなら自分よりも年下の者が自分と同等以上の能力の持ち主には妬みか嫉妬が必ず付きまとうものだがこの二人にはそれらが全くなかった。二人とも自分の能力を 純粋に楽しんでいるからそれ以外のことは眼中の外だからだ。ちょうどその時2人の後ろ側にあったピンク色に塗装されたロボットが動き出した。

「レッッツゴォォォ ゲェキィィガンガァァァァ!」

整備場内暑苦しい男の声が響き渡る。その場に居合わせた全員が声の方向に視線を集めた。すると先ほどまで動いていなかったはずのロボットが急に動き出していた。