機動戦艦ナデシコ


理想を叶える道の歩き方


  「宝探しに行こう!」

自分たちの作り上げた鋼鉄の船で星の海を渡っていて、しかも織姫と彦星が嘆いている距離ですら瞬間で跳び越せるこの時代。真顔でこんな事を言う人間がいるのか。しかし現実には確かにいる。いるんだから仕方が無い。それじゃあ、言われた方の反応はどうなるのだろう?

目の前の部下である青年──名前はカイト──に上司であるホシノ・ルリは隣で仕事をしていた少年に

「ハーリー君、精神科のいいお医者さん知ってる?」

「いいえ、僕はちょっとその方面には詳しくはないですよ」

「僕は正常だよ、ルリちゃん。この宝の地図が・・・」

カイトは自分の正常さを示すために宝探しの証拠となる地図を出した。それは宝探しの地図の品格、つまりは適度なぼろさ、を持っていた。しかしそれは余りに宝の地図らしすぎた。

「サブロウタさん、人間はずっと仕事をしていると頭がおかしくなるんですか?」

その問いにサブロウタはチラリ カイトのほうを見た底意地の悪そうな笑みをもらした。

「いやーどうすっかね。あっ、でもこっそり部屋で二人いちゃついていたらどうなるのかな?」

「サブロウタさん!」

冷静なはずの電子の妖精が顔を真っ赤にして立ち上がった。それを見てサブロウタはしてやったりという顔をしていた。

「あのー、話進めていいかな?」

自分のプライベートを暴露されたのに頬を少し赤らめてぽりぽりと掻いているだけのカイト。ある意味できた人なのだが。

「カイトさんも少しは否定してください!」

くるりと向きを変えて自分の弁護に巻き込もうとする。しかし残念の事に助けを求めた相手が悪かった。

「なにかって言っても・・・。事実だし」

爆弾発言だった。

ゴッシプが好きなナデシコクルーは既にブリッジの連絡を受けこの情報を知り、そこから勝手に話が進んでいた。

いわくカイトはルリの部屋に通い夫をしている。

いわくルリはカイトで男の身体を研究している。

いわくカイトはルリにコスプレを強要している。

三流ゴシップ誌でもこんな嘘っぱちは信じない。

が清い心を 持った少年は信じてしまった。

突然笑いながら(やばい系の)どこかへ走っていった。

「ハーリーの奴・・・。初恋は実らないか」

心配してくれるのはサブロウタだけであった。

当の二人はというと。

「カイトさん!なんで本当のことって言ってしまうんですか」

「だってさ、よく部屋にいきっこするわけだし」

「うわさの方が大変じゃないんですか。その・・・、迷惑じゃないんですか?」

「いや別に僕の方は何とも。そういうルリちゃんは?」

「私も迷惑なんかじゃありません」

「うん。じゃこの問題は解決とぉ。それで宝探しのほうなんだけど。近頃働きすぎじゃん。だから今度の連休にでも旅行がてらにと思ってね。近くに温泉もあるし料理もそこそこ美味しいらしいし。ルリちゃん温泉って行った事ないだろ」

「確かに温泉には言った事はありませんが」

「じゃどうよ。一緒に行ってくれないかな」

その時の声だけはいつもからは考えられない位ものすごく真剣だった。顔も緩んでなくきりっと締まっていた。その顔を見たルリはボーっとしてしまった。

「はっ、はい。ご一緒 させてください!」