リレー小説 『夏祭り!』 







<エンディング Ver.2>

 「ねえ、すごいね。こんなに大きいなんて」

 「うん。綺麗で音が大きくって」

 「VTRでこんなに綺麗なんだから、実際はもっとすごいんだろうね」

 「どーなのかなぁ。見てみたいね」

 「そうね。私は見晴らしのいい山の上から見てみたいな」

 「えー。僕はすぐ近くがいいよ」

 「近くだったら、見上げていないといけないから長い時間見れないでしょ?」

 「僕はそんなにならないやい。あ、そっか。歳だから無理なんだね。おばさん、おばさん」

 ごすっ!!

 「一つしか違わないでしょ。次、言ったらぶつわよ!」

 「ぶ、ぶってからいうなんって……ひどいよ!」

 「どっちがひどいのよ!」

 「けど、一緒にみようね」

 「そうね。一緒にみましょうね」

 

 とおい、とおいむかしのちいさなときのきおく。

 

 

 

 「カ、カイトさんが起きてる……」

 お祭りの最終日。ルリは日課であるカイト起こしに部屋に来たわけだが、なぜかカイトはベッドから身を起こしていて、カーテンの開いた窓の外を見ていた。

 (そんな、日課のカイトさんのかわいい寝顔、5分間観察が……)

 「……あ、ルリちゃん、おはよ」

 愕然としているルリに気づいたカイトは、振り返りルリに挨拶をした。

 「お、おはようございます……」

 ルリは反射的に挨拶し返したが、とても澄んだ顔がまるで知らない人。いや、いつも見ている顔で声なのは間違えなくカイトなのだが、雰囲気が全く別人だった。

 「んっ? どうかした、ルリちゃん?」

 「い、いえ。な、なんでもないです。そうです、何でもないんですから気にしてはいけません!」

 「そ、そう?」

 「そーです」

 「ま、まあ、よくわかんないけど。起こしてくれてありがと」

 カイトは迫力に押されたのもあるが、必死そうに詰め寄ってきたルリを気遣ってこの話に区切りをつけた。

 このままの状態では仕方ないので、カイトはまだ詰め寄ってきているルリをひょいっと持ち上げ、近くの椅子に座らせると洗面台に行き、身だしなみを整えた。

 「ルリちゃん、なんだか怒ってるように見えるけど、寝ぼけて何かしたかな?」

 カイトは戻ってきてもちょっとふてた顔して椅子に座っているルリを心配そうに見る。

 「別になんでもないです!! ただ、カイトさんが珍しく起きていてびっくりしただけですから!」

 「は、はぁ。なんだかわかったよーな、わからないよーな……」

 (ともあれ、お姫様のご機嫌を治して今日は夏祭りを楽しまなければ。だって、今日は最終日なんだから)

 「さってと、そろそろ朝ご飯なんでしょ。さ、いこうよ」

 そういってカイトはルリの手を握って歩き出した。

 「えっ……は、はい!」

 とっさの行動にルリは顔を赤くしながらも、どきまぎした心を隠して一緒に歩き出した。

 

 

 

 朝食も終わり、いつものテキ屋巡り。

 普段なら、1人で回っているが、最終日ともあり一時もカイトと離れるのはごめんだと言わんばかりにルリがついてきているが、不機嫌そうに一歩離れてカイトの後ろを歩いていた。

 その不機嫌そうな視線をびっしびっし浴びているカイトは気が気じゃなかった。

 (おかしいなぁ。食事が終わった頃にはもうご機嫌だったのに。片づけをして、一緒に出ようって言ってから……う〜ん?)

 「カイト、次ノオ店スギチャッタヨ」

 「あ、ごめんごめん」

 「もうこの店での用事は済みましたよ」

 三白眼モードのルリは不機嫌になる元凶、ラピスのお株を奪うかのように言った。

 その不機嫌というか怒気というか冷気というかに脅えた店長が速攻で書類を差し出したと言うのは余談である。

 「あ、ありがとね、ルリちゃん」

 少し引き気味でルリの差し出した書類を受け取るカイト。

 それを敏感に感じたのか、ラピスがカイトとルリの間に割ってはいる。

 「ルリ、ナニヲ怒ッテイルノカ知ラナイケド、カイトガ困ッテル」

 「べ、べつに怒ってません」

 「まあまあ、二人とも。僕は困ってないから。ひとまず落ち着いてね、ね?」

 「「落ち着いてます!!」」

 (どう見ても見えないって〜)

 「だいたい、ラピスがべったりしているからカイトさんがうっかししちゃうんです」

 「ナラ、ルリモ横ニ並ンデ歩ケバイイ。ダッタラ、スグ気ヅケル」

 「わ、私は……!!」

 「だから、ふたりとも……」

 カイトの魂の叫びは全く二人に響かず、なぜかしらエスカレート。

 周りにある露店の皆々様は二人の妖精とその僕のやりとりを興味津々、戦々恐々の半々で見守っていたが、突然の乱入者によって事態が一変した。

 「あらあら、人盛りができて大きな声が聞こえるかと思ったら、あなた達三人なのね。みんながびっくりしてお仕事ができなさそうだから、気分転換に場所を変えない?」

 「「誰ですか!!」」

 カイトには救いの声に聞こえたが、ルリとラピスは敵と見なし反射的に声の方へ振り返った。

 「あらあら、お祭り最終日なのにそんな顔しちゃって。二人とも、かわいい顔が台無しよ。それにあなた達の“騎士様”はとってもお困りみたいよ」

 怒鳴り声をやんわりと言い返され、2人はゆっくりとカイトの方を見た。

 カイトは微妙に笑いながら、頬をかいていた。明らかに困っていたのは容易に想像できた。

 「「あぅぅぅ……」」

 2人はそのまま顔を赤くしてうつむいてしまった。

 「ふふっ。困ってるかもしれないけど、この人は怒ってはないから、安心しなさいな」

 声の主はルリとラピスの肩をぽんぽんと優しくたたいた。

 2人はますます顔を赤くしてしまう。

 「みなさん、お騒がせしました。もう大丈夫ですので、お仕事に戻ってください」

 人盛りはそういわれると、「これでおしまいか」「さて、仕事仕事」「やべっ。時間が!!」などなど言いながら散らばっていった。

 「たすかったよ。こーなると僕じゃどうしようも無くって」

 カイトはほっと胸をなで下ろし、3人を見た。

 「それでもあなたが解決しなきゃいけないことでしょ。ほんとに優しさあまって、優柔不断なんだから」

 「そうだね。でも、ありがと、イツキ」

 そういってカイトと救世主であるイツキはにこやかに微笑んだ。

 

 

 

 ここは露店や屋台通りの先にある噴水のある広場。夜になれば盆踊り(盂蘭盆ではなく娯楽的な)やちょっとしたイベントなどが行われる場所だ。

 ルリとラピスはそこにあるベンチに腰をかけてイツキの買ってきたソフトクリームを食べながら先ほどのいざこざを忘れて、楽しそうに話をしていた。

 カイトとイツキも少し前までは4人一緒に話をしていたが、今は少し離れ、噴水の縁に座っていた。

 「久しぶりね、ホント」

 「そうだね。テーマパークのセレモニー以来か。狭いようでこの祭りも大きいんだな」

 「くすっ。あなたみたいに何でもかんでも首をつっこめるほど私はアクティブじゃないわよ」

 「別に特別何かやってる訳じゃないよ。ただ、みんなが楽しければいいなって思っているだけだし」

 「そう思って実行できるのはすごいわよ」

 「ははっ。まさか、褒められるとは思わなかったよ。昔は何かすると落ち着きがないとか、慌て者とかよく怒ってたのに」

 「あら、素直に成長を認められてるんだって喜びなさいよ」

 イツキは苦笑するとぺろりとソフトクリームを舐めた。

 「そういえば、今日が祭りの最終日だけどあれから何をしてたの?」

 セレモニーの時はカイトの補佐をしていたイツキだが、それが終わると『本来の任務があるから』と言って、去っていったきり旧ナデシコクルーがイツキを見た件数は両手で数えられるぐらい、カイトに至っては見たことがない。疑問に思うのも仕方ないだろう。

 「なにって、このお祭りの警備よ。これでもAエリアの主任なんだから」

 「へぇ。でも、遊ぶ時間がない訳じゃないでしょ。リョーコさん達は特に会いたがってたみたいだし」

 「プライベートも大変なのよ。これからの身の振り方とか……」

 イツキは視線を溶けかかったソフトクリームに落とす。

 「えっ。でも、イツキは軍にいるんじゃ? もしかして、レイラさんの所?」

 「ううん、別の所。あなた達を見ているとね、自分たちのしたいことをしてるんだなって。で、何となく自分の“したいこと”って何だろうなって考えみたのよ」

 「へっ?」

 カイトは気の抜けた、間抜けそうな顔をしてイツキを見た。

 「ぷぷぷっ。あなた達はそう思ってないでしょうけど、周りからはそう見えるのよ。いつもどんなことがあっても“自分らしく”。正直、うらやましいわ。だから、うらやましがってないで私の“自分らしく”を考えてるのよ」

 はじめはカイトの間抜け面を笑っていたイツキだったが、次第に瞳に真剣みがあふれてくる。

 「じゃあ、今は“自分らしくなりたいもの”ってあるの?」

 カイトはそういうとソフトクリームを口に入れた。

 「そうね……かわいいお嫁さんかな? 娶ってくれませんか?」

 イツキはそう言ってカイトをからかうようにいたずらっぽくぺろっと舌を出した。

 カイトはイメージからかけ離れたイツキの態度に舐めていたソフトクリームでむせた。

 「!!!! げほっげほっげほっ……ふぅ。いきなりなに言うんだよ、ジョーダンきつよ」

 「どーゆー意味よ。私がかわいいじゃ、なんか不都合なの? それとも私じゃ、いや?」

 イツキは悲しそうに視線を下げた。

 「違う、違う。イツキはその、可愛いじゃなくて、綺麗なお嫁さんだってイメージがあるから。だから、悪いことで言ったわけじゃなくって、以外だったというか、娶るってのもそのあの……」

 「ぷっくくくっあはははっ。冗談よ、冗談。本気じゃないから」

 「全くイツキは……いつの間にか軽い性格になってるんだから」

 「染まったのかしらね、ナデシコに」

 2人は見合わせると同時に笑い出した。

 その笑い声に気づいたルリとラピスがそろそろ話が終わったのだろうと思って近づいてきた。

 「あら、そろそろあなたの可愛いお嫁さん候補がしびれを切らしたみたいね。ちょっと長話だったかしら?」

 「だから、からかわないでって」

 「ふふっ。ごめんね。あなたとは当分逢えないかもしれないって思うといぢめたくなるのよ」

 「えっ?」

 イツキの言葉に呆然とするカイト。

 「驚かないでよ。私も私の夢を見つけてそれに進んでいくつもりなんだから。それが見つかるまでは逢えないかな?」

 「別にそんなに無理しなくても。僕らと会ってもいいじゃないか。それに手だって貸してあげれるし。僕はたかがしれてるけどナデシコのみんななら大丈夫だよ。それにさ、すこしぐらいなら気晴らしになるかもしれないし。イツキはまじめだからその……」

 カイトの言葉がとてもうれしかったがイツキは微笑みながら首を横に振った。

 「うれしいけど、あなた達は優しすぎるし、今の私にはまぶしすぎるのよ。だから、本当に困らない限り、私自身で何とかやってみせるわ」

 「そっか……なら、がんばれよ、イツキ。陰ながら応援してるよ」

 「ええ。今日、ここで“昔の夢”をかなえたら、新しい自分の夢を見つけるわ。そしたら、また逢いましょうね」

 「……えっ、“昔の夢”?」

 「あら、おぼえてないの? 昔、私があなたに語った小さな“夢”よ。でも、小さかったから覚えてないのかもしれないわね」

 不思議そうに自分を見るカイトをイツキは昔を懐かしむように言うと噴水の縁から立ち上がり、ルリ達の方に向かって手を振った。

 「ごめんね。ずっとカイトを借りちゃってて」

 「いえ、かまいません。そんなに長い時間じゃなかったですし」

 「ルリ、嘘ツキ。“いつ終わるんでしょう”ッテ、ブツブツ言ッテタノニ」

 「ら、ラピス!」

 「あらあら、大丈夫よ。私はこれからお仕事だから。じっくり占有してね」

 「べ、別に私は、カイトさんを占有したい訳じゃ!」

 「ウン。アリガト、イツキ」

 「ラ、ラピス!!」

 「くすくすっ。あまりカイトを巡ってけんかしないように仲良くね」

 イツキはそういうと手を振りながら去っていった。

 ラピスも手を振り替えしていたが、ルリは少し憮然とした顔をしていた。

 「全く、カイトさんがだらしないからいけないんですよ。普段からしゃきっとしていれば、からかわれることなんて無いんですから。って、カイトさん聞いています?」

 「えっ。ごめん、聞いてなかった」

 「全く何を考えてるんですか」

 「ルリ、怒リスギ。カルシウム不足」

 「違います! 私はカイトさんのことを思って……」

 また2人の言い合いは始まったが、その声はカイトに届いていなかった。

 (昔の……昔、イツキが僕に語ってくれた“夢”……か)

 

 

 

 キラキラと星が顔を出し始め、夜空は一大キャンパスになり始めた頃、そのキャンパスにもう一つの色が添え始める。

 大花火である。

 この夏祭りの最後を飾るにふさわしい大花火大会である。

 この花火は三時間以上にわたる壮大なものである。

 夏祭り実行委員会はこれだけの長時間にわたる花火は観客を疲れさせ、終いには飽きさせるのではと難色を示したが、ウリバタケ率いるナデシコ整備班チームとサセボ花火協会の面々が“ああんっ? 俺たちがすることが飽きさせるわけ疲れさせる暇なんかやる訳ねーだろ。黙ってみてな。ファイナルにふさわしいく、あっと言わせてやるぜ!!”と啖呵を切ったため、噂が噂を呼び、近場のだけでなく海外からもこの一大イベントを見ようと大勢の人が集まっていた。そう、彼らも例に漏れず集まっていた。

 「これだけの一等地をキープしたんだから少しぐらい労いの言葉があってもねぇ」

 「はいはい。感謝してますって、アカツキさん。アキト、すんごくたのしみだね」

 「そうだなぁ。でも、隣は大変そうだけどな」

 「そうだね。あははっ」

 とりあえず、黄昏れているアカツキは放って置いて、ユリカは頬に汗を浮かべて、アキトの隣でカイト争奪戦をやっている2人の娘達を見た。

 火花を散らす原因となっている人物と言えば、昼頃、正確にはイツキと別れたあたりからずっと考え込んだままだった。むろん、その態度がルリとラピスの争奪戦をあおっているのをわかっていないのはカイトがカイトたる由縁だろうか。

 「もう、カイトさん。そろそろ花火が上がりますから、少しぐらい考えるのをやめて楽しみましょうよ。考えるのはあとでもできますが、花火は今しか楽しめませんし」

 「ソウダヨ。花火師ノオジイチャン達スゴクガンバッテイタンダカラ」

 二人して、カイトの浴衣の裾を引っ張る。

 ルリの熱心な、ラピスの健気な薦めにようやくカイトも折れたのか、裾を引っ張る2人の手を握った。

 「ごめん。そうだよね、僕たちを楽しませてくれるためにセイヤさん達はがんばってるんだから、楽しまないと」

 そう言ってにっこり微笑む。

 2人もつられてにっこり笑った。

 「あ、た〜まや〜!! へへへっ、一番乗り♪」

 一番花火を見たユリカがイの一に第一声をあげた。

 「おっ。か〜ぎや〜〜!!」

 それに続いた第二の花火にアキトも声を上げる。

 それをきっかけに周りからも歓声が上がる。

 「ネエネエ。ドウシテ“たまや、かぎや”ッテイウノ?」

 こういった体験のないラピスが不思議そうに小首をかしげる。

 「そういえば、僕も知らないな」

 カイトもまねするように小首をかしげる。

 「それはですね、もともと江戸時代の花火屋にあった屋号です。そのすばらしい花火を賞賛する意味を込めて昔の人は“玉屋、鍵屋”と言ったそうですよ。だから、今はその名残です」

 「へぇ。そういう云われがあったんだ。よく知ってたね、ルリちゃん」

 「ルリ、物知リ」

 「べ、別にそんなんじゃないですよ。ただ、たまたま読んだ本に書いてあっただけで」

 ルリは2人の純粋な賞賛に照れて下を向く。

 「けど、すごいな。さすがにセイヤさん達がやってるだけはあるなぁ。昔見たのとは大違いだ」

 「昔って、花火見たことあるんですか?」

 うつむいていたルリはぱっとカイトを見る。

 「うん。昔VTRでちょっとね」

 カイトは懐かしそうな視線を眼前にある花火から離さず答えた。

 (そう昔に……昔。そうか、あの“夢”はあのときの)

 何気ない言葉から思い出される。遠い昔の夢。

 「そっか……そうだったのか」

 そう言うとカイトは立ち上がった。

 「ど、どうしたんですか?」

 ラピスもルリの声で気づいたのか立ち上がったカイトに不思議そうな視線を向ける。

 「ちょっと約束を思い出しちゃって。ごめん、ちょっと行ってくる」

 「えっ? いったいなんですか?」

 「ドコニ行クノ? イッショニ花火ヲ見ヨウヨ」

 「本当にごめんね。今、行かないとだめな約束なんだ。絶対に必ずうめあわせはするから。お願い!」

 カイトは拝み倒すように頭を下げる。

 しばらくして、先に折れたのはルリだった。

 「……仕方ないですね。ちゃんと埋め合わせしてくださいよ。ラピスも私もすごく楽しみしていたんですからね」

 「エッ。デモ?」

 引き下がろうとするラピスをルリが制し、カイトを促す。

 「ありがと、ちゃんと約束は守るから」

 そう言うとカイトは足早に去っていった。

 「ルリ〜」

 カイトの姿が見えなくなるとラピスは恨みがましい視線をルリに向ける。

 「仕方ありませんよ、あんな目をされると」

 「?」

 ラピスはわからないといった表情で小首をかしげる。

 「こういうときは大切な約束事があったり、今しかできないこととかですから。それに約束はちゃんと守る人ですよ、カイトさんは。だから今日は、私達と一緒に楽しみましょう。それでは不満ですか?」

 「……ウゥン、ソンナコトナイ」

 「帰ってきたら、いなかった時間分甘えればいいんですよ」

 ルリはそう言うと優しくラピスの頭を撫でた。

 不満そうにしていたラピスも表情を柔らかくし、視線を花火に向けた。

 大輪の花火がはじける。

 「タ〜マヤ〜!!」

 「か〜ぎや〜!!」

 

 

 

 カイトは会場すみにあった連絡用の自転車を借用すると約束の場所へ懸命にこいでいった。

 人混みに逆流するように、横の方で上がる花火のように一直線に自転車をこいだ。

 どんどん人は少なくなっていく。そして、目的の場所にどんどん近づいていく……

 「はぁはぁ……やっぱり、ここだったんだね」

 カイトのついた地はかつてラピスと来たことのある丘だった。

 そこにそびえる大樹の下には浴衣を着たイツキがたっていた。

 「えっ……なんで、あなたが?」

 「だって、ここぐらいしか思いつかなかったし。よかったぁ、ちゃんといて」

 突然現れたカイトに驚いたイツキは手にしていた団扇が落ちたことすら気づかなかった。

 カイトは自転車を置くと、イツキのそばに来ると団扇を拾って花火の方を見た。

 「すごいね……やっぱり、いくら大スクリーンでもこうやってみるのにはかなわないね。どうしたの、イツキ?」

 カイトは驚いたままのイツキに優しく微笑みかける。

 それでようやく現実感が戻ったのか、呆れたのかイツキは頬に手を当て困った顔をした。

 「ほら、また大きいの。あ、次はすごく模様がこってるなぁ。どうやったらああやって綺麗に円を描けるように上がるんだろ? しってる?」

 「そうじゃなくって……いいの、ここに来ても? ルリちゃんやラピスちゃんがいるんじゃないの?」

 カイトはイツキの問いに不思議そうな顔をする。

 「うん。そうだけど、イツキとの約束の方が先でしょ。だから、断ってきたんだ」

 「そんな……でも、私との約束って昔にしたっていっても……」

 「だめかな。いまごろじゃ」

 カイトは残念そうに手にしていた団扇をイツキに差し出す。

 「ちがう、ちがう。すごくうれしい、思い出してくれて。でも、でも、今のあなたには……」

 「でも、イツキとはいつ逢えるかわからないし、こういった花火大会もいつあるかわからないじゃないか。だから、僕は“今”を選んだんだよ。イツキにとって迷惑じゃなきゃ、一緒に見ようよ、花火を」

 「あなたって人は……ほんとうに……ほんとーに……おばかさん」

 「なんでお……」

 イツキの方に振り返ったカイトは息が詰まった。

 イツキの瞳から、ぽろぽろ涙がこぼれていた。困っているような、それでいてとてもうれしそうな笑顔で。

 「ほんとうに……あなたって人は。ほんとうに好きになってよかった。きっかけはすり込みでも、今は私自身が本当に大好きになった人で……」

 そのままイツキはカイトに抱きつき泣いた。

 「本当にあなたが大好きでよかった。最後にちゃんと言えてよかった。ありがとう」

 「イツキ……僕は……」

 「いいの。言わなくてもわかってるから……ただ、この花火が上がっている間だけ。ただこの時だけ……」

 「……うん」

 カイトはイツキの涙にそっと口づけをした。

 

 

 

 

 

 

 それより十数年後……

 

 私、ミスマル・カイトは夏になるとそっと思い出す。姉でもあり、初恋の人であった人のことを。

 妻は鋭いのか、時々感づいているみたいでそう言う仕草があると焼き餅を焼く。正直、彼女のツインテールがゆらゆらと揺れているようで怖い。

 でも、彼女もまたわかっていてくれている。

 ほんの一瞬だったあの夏の青春の思い出……

 

 

 

 

 後書き

 

 ぎりぎり間に合いました。

 本当はもっと余裕を持って仕上がる予定だったんですが、どうにもこうにも。自分の意志の弱さにはへこみます。

 へこんでばかりもいられないので、これを機にがんばるぞー。

 ルリ:あの……相変わらず私の役って。本当は私のこと嫌いでしょ。

 いや、そーじゃないって。夏の一ページって事で……一番割食ってるのはラピスなんだから〜〜

 ラピス:……ソウナノ?

 いや、その……そーなんだけど……ごめんよ〜〜〜(ダッシュで逃げていく)

 ルリ:追いますよ、ラピス!!

 ラピス:ウン!!

 

 

 

 おまけ:実はこの続きを考えています。よみたーいという希望がある方はメールをくださいな。がんばって書いちゃいますから。











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