リレー小説 『夏祭り!』 |
長く続いた夏祭り。いろいろあったけど、始まりがあれば終わりが必ずやって来る。そう。この日が文字どうり、お祭りのフィナーレだった。
宿舎内の大会議室
「さあ、お祭りも、今日で最後だ。皆派手にやってくれ。」
相変わらずのお気楽な口調で話し出すのはご存知アカツキ・ナガレ。その間の抜けた挨拶に周りの皆ダレ切った返事で答える。
「「「「「あ〜〜〜〜〜〜い」」」」」
まあ、最後に残るプログラムといえば、晩の盆踊りと打ち上げ花火ぐらいしか残っておらず、そちらの方は、すでに準備が終わってる為、皆んな、やる気が無い。いや、それ以前に疲れてダレきっている。
「まあ、最後なんだし、俺たちも、楽しむ方に回ろうか。」
今回の祭りのまとめ役である、ウリバタケ・セイヤが言う。誰も反対しなかった。とそこへ、実行委員の人が、
「ウリバタケさ〜ん。ご家族の方がおみえです。」
「おおっ。今行く〜。最後の日なんだから、たまには家族サービスぐらいしなきゃ〜な。」
そういって、出て行く。実は、最終日の今日、世間でいう、お盆休みにぶつかる為に家族や恋人、親しい友人のいるクルーはみな、サセボに招待していた。(もちろん費用はネルガル持ちで。)そんな訳で、銘々、散って祭りを楽しむ事になる。カイトたちももちろん、最後の日を満喫するべく会議場を出る。
「それじゃ、いきますか。」
「ええ、サブロウタさん、ハーリー君。行きましょう。」
「了解。」
「ええっ!!いいんですか?」
「駄目ならこんなこと言わないでしょう。私たちは家族同然なんですから。」
そんなこんなで、会場へと向かう一同。とそこへ、宇宙軍の公用車がやってきた。車から降りた人物をみて、すかさず一同敬礼する。
「ミスマル総司令、ムネタケ参謀長、秋山少将、ご苦労様です。」
「まあまあ、君たちは、休職中だ。そう堅くならんでもいい。」
浴衣姿のコウイチロウに、
「ハ〜〜〜イ。」
アロハにグラサン、ウクレレ弾きながらムネタケ少将・・・・・ここまでファンキーなジジイだと、とても、軍のお偉いサンに見えない。
「いや何、我々も、祭りに混ぜてもらおうかと」
甚べえ姿の秋山少将。そして、
「ナデシコの元クルーとして君達の祭りに混ぜてもらおうと思ってな。」
少し間を置いて最後に降りたのは、ナデシコAの提督、フクベ・ジン退役少将だった。もっとも、ファンキーさでは、ムネタケ少将の上を行っていたが。
「まあそんな訳だ。今日は、階級は関係なしだ。所で、ユリカは?この祭りのためにアキト君と先に来ているそうだが・・・」
「「提督!!知っていたんですか?二人の事?」」
コウイチロウに詰め寄るカイトとルリ。
「あ・・・ああ・・・アカツキ君から協力要請があってね。君たちには既に承諾を得てると聞いたが・・・」
((アカツキさんあとでおしおきですね。))
二人の考えが一致した。その後彼がどうなったのか。それは、また別の機会に・・・
「まあまあ二人ともそんな怖い顔せずに。」
とそこへ・・・
「お父様〜〜〜〜〜」
ユリカがやってくる。アキトとラピスを引き連れて。
「おお〜〜ユリカ。元気だったか。アキト君も久しぶりだ。所で、一緒にいるのは初孫かね?」
「はっ・・・と・・・とんでもない。」
「も〜〜〜〜お父様ったらそれならそうと言ってくれれば〜〜いつでも赤ちゃんつくるのに〜〜〜」
「なっ・・・何馬鹿いってんだ・・・・・そういう事はきちんと結婚してからだな・・・・」
うろたえるアキトにトリップするユリカ。最初二人の結婚に反対だったコウイチロウの元に単身通い詰め、説得するぐらい生真面目な性格のアキトのことを信頼して言った冗談のつもりだったが、ユリカの様子をみて、軽はずみな事を言ってしまったかと少し後悔するコウイチロウだった。そんな二人を差し置いて・・・
「ハジメマシテ。ラピス・ラズリデス。」
「そう堅くならんでいい。わたしはミスマル・コウイチロウ。ここにいるユリカの父だ。こちらこそ初めまして。」
挨拶するラピスの目線にあわせ、しゃがんで挨拶しながら頭を撫でるコウイチロウ。アキトとユリカはそんなラピスの行動に驚いていた。
(そういえば、国王がたに挨拶した時二人はいなかったんだっけ。)
カイトは成長したラピスの様子に驚いている二人をみて微笑み、取り繕うように一言。
「それでは、祭りの最後、楽しみましょうか。」
そんな訳で、それぞれ最後の祭りを楽しんだ。勿論、カイトたちも。といっても、昨日のようにルリと二人きり・・・ではなく、サブロータとハ―リーと共にだったが、お互いに苦楽を共にした仲間。4人仲良く屋台のある会場に歩く。
「にしても・・・大丈夫か?カイト?」
ふいにサブロータが問い掛ける?
「何がですか?」
カイトはお気楽に聞き返す。
「やつらのことさ。いつまた仕掛けてくるとも限らない。」
「・・・確かに。もう襲ってこないと言う確証は何一つありません。でも、僕は、気付いてくれる事をしんじてますから。同じ人間同士。楽しい時を邪魔するより、自分達も楽しんだ方が絶対にいいということに・・・。」
カイトは一点の曇りのない笑顔で、そう言った。サブロウタも・・・
「ま、そうだな。なんかあったらそんとき対処すりゃあいいか。」
お気楽にそう答える。
「ええ、もしそうなったら、そんときは・・・今度こそ、容赦はしない。」
カイトがそう言い放ったとき、周りの空気が凍りついた気がした。サブロータとハーリーは戦慄を覚えるが、ルリは、
「再起不能にならない程度に手加減してあげてくださいね。」
しれっと返す。
「「二人とも冗談に聞こえないっす(です。)」」
そんな二人のやりとりに、冷や汗をかくサブロータとハーリーだった。カイトは二人に向き直ると・・・
「あ、サブロータさん。ハーリー君。あれ、やってみません。誰が一番多く景品とれるか?」
そういって、射的の屋台を指差す。その無邪気な様子からは、さっきと本当に同一人物に思えない。そんなこんなで、屋台めぐりを楽しんでいった。
そして、日がおちて、フィナーレを飾るべく、盆踊りが始まった。コウイチロウと、秋山少将の和太鼓と共に、みな、浴衣姿で、踊り出す。
そして、終わりが近づいたとき花火が次々と打ち上げられルリとカイトは、二人きりで会場から少し離れた丘の上で、眺めていた。
「ルリちゃん久しぶりだね。その浴衣。」
いまルリがきてる浴衣は、コンテストのときの物ではなく、前に、カイトがルリに買ってあげたもの。と言っても、ピースランドの件で、大怪我して、ルリに心配させたお詫びとしてであるが。
「ええ。せっかくカイトさんが買ってくれたんですから。それより、カイトさんこそ、あの時の浴衣じゃないんですか?」
「あの時って?これ一枚しか浴衣持ってないけど。」
「日本舞踊、踊ってた時のですよ。ミナズキ・アイコさん。」
ルリが意地悪っぽく言う。カイトは額に縦線状態で・・・・・
「ル・・・・・ルリちゃん・・・・・もしかして・・・・」
「一目見て解りました。私を騙そうなんて、10億光年早いです。アカツキさんが仕組んだ芝居だってことぐらいすぐにわかります。」
「お・・・怒ってる?」
「あの時、皆さん巻き込んで充分お仕置きしましたから。でも、やっぱり気が晴れませんね。」
そっぽむきながらルリは言う。
「ごめんッルリちゃん。言う事なんでも聞きますから。」
「なんでも・・・本当にいいんですね。」
翌日
宿舎内の大会議室
「いや〜〜〜皆張り切ってくれたおかげで、祭りの方も大盛況。サセボの観光協会の皆さんも喜んでくれて、ほんと、助かっちゃったな〜〜」
最後の最後まで、お気楽な口調で締めくくるアカツキ。実際、この祭りの収益自体、莫大な物になったらしい。アカツキがご機嫌になるのも無理は無い。
「今回皆んな無理を押して頑張ってくれたんで、報酬は特別にボーナス分を上乗せして振り込んでおくよ〜」
普通なら、皆んな喜ぶところだが・・・・
「「「「ふぇ〜〜〜〜〜い」」」」
・・・・・・・皆さん燃え尽きていた。
「・・・・・とにかく、皆の帰りの交通機関の準備が出来てるから、支度の出来た人から順に送らせていくよ。それじゃあ、ご苦労さん。」
そんなこんなで、銘々家路につくナデシコクルー達。その一方で、ルリ達は・・・
「サブロウタさん、ハーリー君。私とカイトさんは、こちらでの仕事が残ってます。先に宿舎に戻り、今日と明日、ゆっくり休んで下さい。」
ルリは二人にそういうが・・・ハーリーは・・・
「それでしたら僕も残って手伝います。」
「いえ、私とカイトさんで事足ります。」
「でも、少しでも人手が多いほうが・・・」
「ハイハイ。艦長がああいってるんだ。せっかくの休みなんだ。無理しないで休もうぜ。」
熱くなるハーリーをなだめながら帰りのバスに引きずっていくサブロータ。そんなサブロータにルリは、
「すみません。」
と謝るが、サブロータは
「いえいえ、いいっすよ。野暮な事はしたくないんで。ゆっくり楽しんでって下さい。こんなチャンスめったにないっすから。」
と言い残し、バスに乗り込んだ。そして、バスはトウキョウへと走り去る。ルリは・・・
「ばれてたみたいですね・・・」
と呟いた。そして、ルリはカイト達の待つ旅館へと向かった。確かに、最後の仕事が残っていた。そう、ラピスの身の振り方について・・・。
旅館
その一室、ラピスはもとより、アカツキ、アキト、ユリカ、エリナ、コウイチロウ、ジョン、レイラ、そしてカイトが集まっていた。そこにルリがやってきた。
「お待たせしました。」
「さて、全員そろったところで、本題に入るが、ラピス君の今後をどうするか。わがネルガルとしては、うちの社員として扱いたいところだが・・・」
「ラピスちゃんはあたし達の娘としてむかえますっ!!お父様も孫娘が欲しいって言ってますから。」
「おいユリカ!!」
「だいじょうぶだって、ルリちゃんやカイト君と一緒に暮らしてたんだし。二人とも離れちゃったけど」
「・・・いや、二人のために離れたんですけど・・・じゃましちゃ悪いから・・・」
カイトが突っ込むが、ユリカはすっかりラピスを引き取るつもりでヒートアップしている。
「そうだな・・・ユリカにアキト君、この際だ。ラピス君と一緒に家で暮さないか?」
コウイチロウもすっかりその気だ。おまけにユリカ達も家に戻そうとしてるし・・・(それが本音だったりして・・・)
「しかしラピス君がもう襲われないと言う確証が無い。アキト君やユリカさん、君たちで護りきれるかどうか・・・」
ジョンがそう言った。確かに、彼女を研究材料として狙ってる輩は未だ他にもいるだろう。万一襲われでもしたら、彼女の周りにも危害が及ぶのは目に見えている。
「それに、IQが高く英才教育受けているとはいえ、情操教育もきちんとやらないと・・・」
「それじゃあ私たちが情操教育できないみたいじゃないですか〜」
レイラが付け加えると、ユリカが食って掛かる。
「いや、そういうつもりじゃなくってラピスちゃんが普通に学校行っても大丈夫かってこと。」
そう、いまだマシンチャイルドに対する偏見が無いとはいえない。それで無くとも、ラピスはかつてのルリ以上に、寡黙で情緒不安定なのだ。この祭りのお陰で、ある程度は人見知りしなくはなったのだが・・・。
「ねえ、ラピスは誰といたい?」
そんな外野をよそにルリがラピスに問い掛ける。その直後、水を打ったように静まり返る。
「ワタシハ・・・・ダレトイタイカトイワレテモワカンナイ。タダ、コレカラモミンナトタノシクスゴシタイ。」
「それでしたら、ナデシコに・・・私たちの艦に来ませんか?それでしたら狙われる心配ありません。それに・・・情操教育についても、反面教師がいっぱいいますから大丈夫でしょう。といってもこの祭りに参加した皆さん全員はいませんけど。」
ルリは微笑みながら言いかける。ナデシコなら、きっと彼女も真っ直ぐに成長してくれる。なぜなら、かつて、自分がそうだったから。そして、彼女に昔の自分が重なって見えたからだ・・・。
「ナデシコ・・・ソコハタノシイ?」
「ええ。あなたもきっと、気に入ると思います。」
ルリは、微笑みながらラピスに答えた。
「ワカッタ・・・ワタシ・・・ナデシコニイク。」
結論は・・・決まった。
そして、みな、サセボを離れた。ルリとカイトを残して・・・。そう。これが、レイラが言ったルリに対するお礼であり、カイトに対するルリの約束・・・そう、二人きりのデートだった。
ホテルベイナガサキロビー
正式なオープンは、あさってのため、ここには、カイトしかいない。そこへ・・・
「お待たせしました、カイトさん。」
ルリがやってきた。いつもは二つに束ねている髪をおろし、水色のワンピースに麦わら帽子、普段のナデシコ艦長の姿とはあまりにかけ離れた姿にカイトはしばし呆然・・・・そんなカイトの腕を組み、
「それじゃあ行きましょうか。」
二人はピースインジャパンで思いっきり楽しんだ。
ジェットコースターでは、ルリがはしゃいで、カイトは、悲鳴をあげていた・・・
お化け屋敷では、よほどつまらなかったのか二人して、でてきたお化けの皆さんに演技指導していた・・・。
観覧車では、半年間くらしたサセボシティの町並みをあちこち見ながら思い出話に花を咲かせていた・・・。
そして、メリーゴーランド。二人仲良く一つの馬に乗っていた。もっとも、二人とも、顔を赤らめて、硬直しながらだったが・・・。
そして、ウォーターパークに向かい、歩きながら、ルリはいう。
「今日は何でも私の言う事聞いてくれますよね。」
「う・・うん・・・」
カイトは硬直しながら返事した。
「それじゃ、あそこでは、この水着を着てください。サイズは合ってますから。」
ルリはカイトにバッグから出した紙袋を渡す。先日のイベントで、水着を用意する際、ルリがレイラに用意させた物だった。
「どんな・・・」
「いま開けちゃだめです。絶対この水着、着て下さい。」
半分おこりながらカイトを制するルリ。そうこうする内に着いてしまう。
「お待ちしてました。ホシノ・ルリ様。本日は、貴方方二人の為の貸切に致します。」
ウォーターパークのフロント係の人がそう受け答えする。
「えっ・・・か・・・貸切って・・・」
「行きましょう。カイトさん。」
そういって、女子更衣室に入っていたルリ。カイトも、男子更衣室に入った。
そして、ウォーターパーク内
先に出てきたのはカイト。ルリに渡された水着(マリンブルーのビキニパンツ)をはいて、顔を真っ赤にして。そのカイトの後ろ、遅れて来たルリが、カイトに声を掛ける。するとカイトは振り返り
「ルリちゃん、この水着はちょっと・・・・・」
といったとたん、カイトは声が詰まる。
「・・・カイトさんとおそろいにして見ました・・・・・。似合いますか?」
ルリは、カイトと同じマリンブルーのセパレートビキニの水着に身を包んでいた。水着を選んだのはレイラ。もっとも、彼女は普通のビキニをルリに進めたのだが、流石に恥ずかしくって着れないからということで、幾分露出の少ないセパレートになった。それでも、カイトにとっては刺激が強い様で・・・ユデタコ状態で油の切れたロボット人形のごとくギクシャクしながら回れ右で、後ろをむき、
「す・す・す・す・すごく似合う・・・けど・・・・・・その・・・」
と、どもりながら、いう。するとルリは、
「こっちを向いてください。この姿はカイトさんにだけ、特別です。」
「う・・・・・・・うん・・・・」
ゆっくりと振り返るカイト。ルリもまた、湯気が出るくらい真っ赤だったが
「流石に他の人がいたら着れません。カイトさんだけに見て欲しかったから貸しきってもらったんです。泳ぎましょう。」
そういって、プールに引っ張るルリ。普段見せないしぐさに戸惑いっぱなしのカイト。二人は楽しい時を過ごした。
そして、テーマパークの閉園の時間になった。ウオーターパークから出て、出口に歩く二人。相変わらず、ルリがカイトの腕を組んでたりするが。
「・・・私たち・・・・・知り合ってから、結構経ちますよね。」
ルリが何気なく言った。
「そうだね。僕が記憶を失い・・・ナデシコにきて、ルリちゃんと一緒にいる時間が一番多いよね。もっとも、一日中二人きりになるのは、ピースランドの時以来だけどね。」
カイトもそれに答える。
「あの時のお礼・・・まだでしたよね。」
歩みを止め、カイトを見つめながら、ルリは言った。だが、カイトは、
「いえいえ。お姫様を護るのはナイトとして、当然のこと。それは今でも変わりません。お礼なんて、もったいない。」
ふざけながらカイトは返す。
「さ、帰ろう。今なら最終便のシャトルバスに間に合う。」
ルリは出口にあるバス乗り場に歩き出そうとするカイトの腕を引っ張り、
「まだデートは終わってません。シンデレラの魔法のタイムリミットまで、まだまだあります。ホテルの方、部屋を用意してもらってるんです。」
「ええっ!!」
カイトが驚く。
「レイラさんが・・・特別にって・・・」
「で・・でも・・・・・」
そうこうしてる内に最終便が出てしまった。
「・・・・・・いい・・・ですよね。」
「・・・・・・・・・ま、ね。」
二人はホテルの方に足をむけた・・・。
ホテルベイナガサキロビー
二人が戻ってくると、ホテルのマネージャーがやってきて
「お帰りなさいませ。ホシノ・ルリ様。ミスマル・カイト様。ディナーの準備が整っております。お部屋にご案内いたしますので、お召し換えのほう、おねがいします。」
「あの〜代金の方は・・・」
「総支配人のレイラ様のご招待です。気になさらなくて結構です。」
「行きましょう。カイトさん」
そういって、案内されたのは、先日ピースランド王家の皆さんが利用したスイート。カイトは物の見事に硬直していた。
「・・・いいの?ルリちゃん・・・・」
「ええ。それより、わたし、シャワー浴びてきますので、カイトさん、先に着替えてレストランで待っててください。」
そう言って、シャワールームに入るルリ。カイトは言われるまま、用意された礼服にきがえてレストランに向かった。
ホテル最上階のレストラン
その一番夜景が綺麗な窓際の席、カイトが座り、脇にいるマネージャーと話をしている。
「あの〜いいんでしょうか?私にはおもいっきり分不相応だと思うんですが。」
「とんでもない。今回、貴方方のおかげで、プレオープニングイベントも成功して、あさってのグランドオープンの予約客が計画していた予想以上に集まりましたし、爆弾騒ぎも未然に防げました。それを考えたら、これくらいお安い御用です。」
「でもそれは、私だけの力ではありません。皆がいてくれたからこそ・・・・・」
「その皆さんが、今回、貴方方のためにお膳立てしてくれたんですよ。」
「それって・・・・・」
「お待たせしました。カイトさん。」
現れたルリは、髪をアップに纏め、ブルーのパーティドレスに身を包み、うっすらと化粧を施し、そして、首には、カイトが奮発して先日のルリの誕生日に贈った瑠璃色の石のついたのチョーカー。昼間の装いと異にする大人の雰囲気を身にまとっていた。
「待ってたよ。ルリちゃん。」
カイトは見とれはした物の、すぐに席を立ち、ルリのそばに向かい、席までエスコート。ルリはそんな意外なカイトの行動に一瞬驚いたが、頬を赤らめてカイトに導かれ席に座る。それを合図に、クラシックが、鳴り響き、シャンパンがグラスに注がれる。
「それでは、乾杯しましょうか。乾杯の音頭は何にします?」
「・・・イベントの成功と、ナデシコに新メンバー加入、そして、お姫様の久しぶりの休日に。」
「・・・なんか、キザですね?」
「やっぱ・・・にあわない・・かな?」
二人のグラスが重なり合い、澄んだ音がする。そして、料理が運ばれてくる。ここでのカイトは普段は見せない、紳士的な振る舞いだった。そんなカイトにルリは、
「・・以外ですね。こういった場所には慣れてないと思いましたが。」
「そりゃあ、こういった席でのマナーくらいたしなんでいますよ。なにせ、お姫様をエスコートするのはナイトの勤めですから。」
二人は、料理を食べ、そして、今回のイベントで起こった色々な事を語り合った。そして、料理のほうが、一段落した時、カイトが席を立ち、ルリの席の前で、しゃがみこみ、手を差し出しながら、一言。
「それでは、お姫様。私とダンスを踊っていただけますでしょうか?」
普段のカイトからは、想像もつかない行動に、ルリは一瞬驚くが、すぐに、
「・・・喜んで。」
顔を絡めながら差し出したカイトの手を取るルリ。そして、二人は、踊り出した。
「・・・どうしたんですか?今日は・・・」
「いや、せっかくだから、楽しまなきゃあと思ってさ。ルリちゃんはこういうのは・・・嫌?」
「とんでもありません。・・・ただ、カイトさんのイメージじゃないから・・・」
「やっぱり?」
「・・・でも、上手です。ダンス・・・・。ほんと・・・不思議な人ですね。カイトさんは。」
二人は、時間を忘れ、ダンスを楽しんだ。
そして、部屋に向かって歩く二人。
カイトは・・・悩んでいた。部屋のベッドはダブルの物が一つだけ・・・。いくらなんでも一緒に寝る訳には・・・
「カイトさん・・・」
「はっ・・・はい。」
「今日は何でも言う事聞いてくれますよねえ。」
「ま、まあ・・そういう約束だからねえ。」
部屋に着き、鍵を開けるカイト。そして、部屋に入ると、ルリは、アップにしていた髪を解き、ヒールを脱いで・・・
電気を点けようとしたカイトの前に向き直った。そして・・・ドレスの肩紐をほどきながら・・・、
「カイトさん・・・教えてください。あなたは・・・私のこと、どう思っていますか?」
ドレスが、床に落ち、一糸纏わぬ姿で、カイトを見つめるルリ。その瞳には、うっすらと涙を浮かべていた。カイトは、月明かりに映えるルリの姿をいつに無く真剣な眼差しで、見つめながら、
「・・・最も大切な人。そして、君が望むのなら、僕は、ナイトとして、君を一生、守り抜く。」
「それって・・・」
「遠まわしすぎたみたいだけどルリちゃんと同じ気持ちってこと。そうでなきゃ、ルリちゃん、そんな格好しないでしょ。」
今度は顔を真っ赤にして、カイトは言う。さっきの真剣な態度はどこへやら・・・。ルリは、思わずカイトを抱きしめた。
「・・・ありがとうございます。」
「と・・・とにかく、服、着ないと・・・風邪ひいちゃうよ。」
「私はこのままでもかまいませんけど・・・」
「ルリちゃん・・・・」
ルリの頬に手を当てながら、見つめるカイト。
「はい・・・・」
ルリは目をつぶる・・・そして、月明かり・・・二人のシルエットが重なり合う・・・。
そして、ベッドルーム。カイトはパジャマを着ているが、ルリは、カイトのYシャツ一枚。ルリ曰く、服は、殆ど(パジャマも含めて)先に宿舎に送ったそうで。
「・・・あの・・・ルリちゃん。せめて、下に何か履かない?」
顔を真っ赤にしながらルリに問うカイト。
「・・・いまさら気にすること無いじゃないですか。この前も、そうでしたし。」
そう言いながら、ベッドの上に乗るルリ。カイトは思わず視線をそらす。そして、ルリは寝転がり、仰向けになって
「今夜は二人きりなんですから。それに、一緒に寝るの、これで3度目ですし。カイトさん。」
「・・・確かにそうだけど、・・その前に、ボタン、閉めない?せめて、パンツは履いてくれないと・・・」
「女の子が誘ってるんです。恥をかかせないで下さい。」
しどろもどろなカイトに郷を煮やしたルリ。カイトを強引にベッドに引っ張り、カイトを抱きしめる。
「・・・ルリちゃん。酔っ払ってない?」
「・・・酔ってないと・・・こんな事・・・こんなはしたない事・・・いえません。」
涙声で、ルリが少しずつ、声を出す。そんなルリの涙を指で拭いながら、
「ルリちゃんが勇気を振り絞ってるの、よくわかる。はしたなくなんてない。・・・でも急ぐ事・・ないよ。僕がルリちゃんを好きな気持ちは変わらないしいつでもこういう機会は訪れるだろうし、その・・上手くはいえないけど、でも、お酒の勢いだけで、こういう事するのって・・・やっぱり・・・」
「ごめんなさい・・・。」
「謝る事なんてない。ルリちゃんがほんとに望むなら、いつでも、それに答える。じゃ、だめかな?」
「はい・・・・。」
瞳を潤ませながら、ゆっくりとまぶたを閉じるルリ。
「お休み。お姫様。」
カイトはルリの髪をなでながら、そういった。
「おやすみなさい。私の・・・ナイト様・・・。」
そして、ルリは眠りについた。カイトを抱きしめたまま・・・
「・・・・・・ま、いっか。」
カイトも諦めて、眠りに・・・なかなかつけなかった。
朝。
「おはようございます。カイトさん。」
「あ・・・もう・・朝?」
「起きてください。」
「・・・ごめん。もう少し、寝かせて。なかなか眠れなかったから・・・。」
「どうしてです?」
「その・・・ルリちゃんに抱きしめられてて・・・その・・・・。」
とたんに顔が真っ赤になるルリ。
「わかりました・・・。ゆっくり寝てて下さい。」
「・・ありがと。」
カイトが寝たのを確認すると、再びベッドに入るルリ。
「今日ぐらい・・・いいですよね。」
・・・・・二人が起きたのは昼を少し回った頃だった。
そして、明日からまた、いつもの日常がはじまる・・・。
End
Host Script
Morry「たいへんおまたせしました。エンディング、ルリとカイトのデート、いかがだったでしょうか?普段まわりに翻弄されて、こんな機会が無いだろうと思い、書いて見ました・・・けど、相変わらず、長い上に、ヤバイ方向にいってるし・・・でも、私の描くカイト君は、紳士的で、朴念仁だから、ルリと一線を超える事はまず無いですけどね。本編の方でも。でも、こちらの方ではお互いの気持ちがはっきりしたので、こんなエンディングもいいかなと。それ以前に、今回のこのイベントでは、皆さんの足を引っ張りまくり、本当に、申し訳ありませんでした。再度、この場を借りて、お詫びします。それでは、-AからBへの3年間-本編で、お会いしましょう。それでは。
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