リレー小説 『夏祭り!』 







<第6話>


この『夏祭り』で、様々な思惑や様々な想いが交錯していった。

そして語り尽くせないほどの多くの出来事が起こった。

永遠に続くかと思われたこの時間。

しかし、はじまりがあれば終わりもある。

この『夏祭り』もいよいよフィナーレに向かって加速していた。



「いよいよ、このお祭りも終わりかあ」

カイトは今まで起こった色々なことを思い出していた。

珍しく今は一人だ。

いつもなら、決って誰かが彼の傍にいるのだが、今の時間は休憩・・・

ちょっとした小休止。

いつも騒ぎの中心にいるカイトだが、たまには一人になりたいこともある。

正直、少しさみしい気持ちにはなるけど落ち着くひととき。


「もう、お帰りですか?」

ふいにカイトが口を開いた。

彼の後ろには編み笠を被った一人の男が佇んでいる。

「お祭り、楽しめましたか?北辰さん」

少し前に殺し合いまでした二人だが、今の北辰達の間には殺気とか血とか

そんな物騒な気配はまったくなかった。

「今回は、少々汝等に塩を贈りすぎたようだ」

重々しいトーンの声だがやはり殺気の類はない。

塩を贈りすぎた。というのは先の爆弾騒動の件で自分達側の情報を

渡したりしたことであろう。

「で、お偉い方に怒られて『帰って来い!!』ですか?」

冗談まじりにそう言うカイト。

すると北辰も口元を緩めた。

「そういうことだ」

カイトは傍にあったラムネを口にする。

暫く置いていたため気が抜けていた。

「いいんですか?獲物がこんなに近くにいるというのに、なんにもしないで 
 帰るなんて・・・」

「言ったであろう。此度の汝との闘いや我等の情報を与えたこと、そして決め手は 
 スポンサー側の失態。あまりにも我等の存在が知れ渡ってしまっている」

たしかに本来、隠密、暗殺を生業としている彼等にしてみればこの状況は

好ましくないことこの上ない。

ネルガルのSPの警戒もより厳重に、より悟られにくくなっている。

この場でこれ以上無駄な行動を起こすのは得策でないと判断したのだ。

一見臆病な行動に見えなくもないが、これがプロの仕事というもの。

「なるほど、それでこのお祭りの間はもう、おとなしくしておこうかな〜とか
 思っているわけですか・・・」

「御意」

「ふむ。でも、ほかの紛れ込んでいる方達が勝手に動かないという
 保証はないでしょう?」

「ぬかりはない。すでに撤収の準備を整えてある」

「さすが、ですね。でも、もし万が一『なにか』が起こってボクの大切な人達を 
 傷つけるようなことがあれば・・・」
 
その時、夏だというのに冷たい風が辺りを包んだような錯覚を覚える北辰。

風は彼の全身を駆け巡る。不快、恐れ、そして狂喜。

北辰の今の感情はこの三つがしめていた。


「容赦はしませんよ」


闘いの中に身を置く者の本能が、それを生み出すのであろう。

だが、この場で彼は必死にその感情を抑え付けていた。

「な〜んてね♪信用しますよ北辰さん」

今の冷たさが嘘のように消えて無邪気な笑顔が現れる。

本当に同一のものなのか?と一瞬疑いたくもなるが、この短い時間の間で

北辰は理解していた。

これが『カイト』なのだと・・・

「でも、折角ここまでいたんですから、最後まで楽しんでいったらどうですか?」

「考えておこう」

そう言いながら北辰は背中を見せた。

「次に、汝と刃を交えし時はどちらかが滅するまでの闘いをしたいものだな・・・」

言い終わる前に彼は消えていった。

それを見送るカイトはラムネの最後の一口を飲み干す。


「ボクは、もうごめんですよ」


カランと彼の手に収まっていたラムネのビンの中にあるビー玉が鳴った。






「色々あったけど、計画はほぼ成功に向かっているねえ」
 
ネルガルの会長アカツキがいつもの調子で言った。

彼の手にはエリナから渡された途中経過の報告書がある。

「まだ終わったわけじゃないのよ。そんなにおきらくでいいの?」

エリナは呆れ気味に彼に言う。

するとアカツキは不敵な笑みを浮かべる。

「大丈夫、大丈夫。もう、終わったようなものだよ」

『はっははは』と高笑いをするアカツキ。

それを見て溜め息をつきながら頭を抱えるエリナ。

「はあ〜、その油断、いつか命取りになるわよ」








休憩を終えたカイトはそこらへんをブラついていた。

とどまることを知らない喧騒の中を歩いていると銀色の髪が見える。

「あ、カイトさん」

銀色の髪の少女、ルリがこちらに気付いた。

カイトは笑顔で答える。

「何処行ってたんですか?」

「うん。ちょっと休憩」

空になったラムネビンをカラカラと振る。

中のガラス玉が右へいったり左へいったりしているのだ。

「セイヤさんが探していましたよ。手伝えってほしいことがあるって」

「あ・・・そういえば、そんなこと言ってたなあ」

「たぶん、まだその辺にいると思いますから・・・」

「一緒に探そうか?」

ルリは自分が言おうとしていたことを先に言われたことに少し驚く。

が、すぐに微かな笑みを浮かべて『はい』と頷いた。




もうお祭りがはじまってから、結構たつがカイトもルリも落ち着いて

この中を回るのは今がはじめてかもしれない。

準備に屋台のアルバイト、ミスコンにライブ。と多種多様のスケジュールを

こなしてきたのだから当然なのかもしれないが。

改めて目を凝らすと本当に色々なものが目に付く。


「あ!ルリちゃん。あれやろうよ。あれ」

暫しの間眼をキラキラと輝かせていたカイトがその輝きをよりいっそう強めて

前方の屋台を指差した。

「ヨーヨー釣り、ですか?」

「うん!」

ルリが答える前に彼はヨーヨー釣りの屋台に走っていった。

その姿はまるで小さな子供のように、無邪気で曇りがない。

カイトの笑顔に吸い込まれそうな感覚になったルリは子供のわがままを

『しょうがないわね』と微笑みながら聞く母親のような気分になったのと同時に

胸一杯に優しい気持ちが溢れていく。

無意識のまま口元を緩めていた彼女はカイトの後に続いた。


「う〜〜ん」

カイトはすでに一回やったあとのようで、切れた糸を手にしながら

難しい顔で唸っている。

「おじさん!もう一回!」

「はいよ」

屋台のおじさんが新しい針のついた糸をカイトに手渡した。

慎重に青と赤の横じまの入った風船のゴムのワッかに針を向けるカイト。

隣でしゃがんでそれを見守るルリ。

ゆっくり、ゆっくりと針を進めていく。

ゴクリとカイトは鍔を飲み込む。

ルリはルリで真剣な顔のカイトに見惚れていたりする。

そして・・・

「やった!!ほら、見てルリちゃん!」

一回の失敗でコツを掴んだのか、カイトは見事そのヨーヨーを釣り上げた。

満面の笑みでルリにそれを見せる。

「え、あ、はい。おめでとうございます」

今、カイトに声を掛けられてようやくルリは現実に引き戻された。

心なしか頬が少し紅潮している。

そんな彼女の様子に当然(?)のように彼は気付かない。

「うん!ありがとう!」

笑顔100%である。

ルリはうれしくなった。

今、カイトはほかの誰でもない、自分に最高の笑顔を見せているのだ。

独り占めしている優越感とこのまま自分一人のものとなればいいのに、という

独占欲にかられてしまう。

こんな笑顔を向けられてしまったらたぶん誰でもそう思ってしまう。

そんなことを考えていると『ぐ〜〜』という間のぬけた音が響いた。

「あ、あははは。ちょっと小腹がすいちゃったみたいだ」

バツの悪そうに苦笑いをするカイト。

「じゃあ、そこのタコ焼き屋の屋台で食べましょうか」

「賛成!」

ルリの提案に即座に賛同する。

それがまたかわいくて愛おしくて笑顔になってしまう。


カイトはヨーヨーで遊びながらタコ焼きをひとつ頼んだ。

『あいよ!!』と屋台の店主は威勢のいい声をだした。

慣れた手つきで器用にタコ焼きを引っくり返していく。

しかも、崩れがなく綺麗なコゲ目までついていた。

二人は『おおー』と感心しながらそれを見ている。

タコ焼き屋もしたことはあるカイトだがこれほど見事に作ることは

できなかったからなおさらすごいと感じる。


できたてのタコ焼きがカイトの前に差し出され、代金を支払いそれを受け取る。

全部で八つのタコ焼きが青ノリと紅しょうがで彩られている。

今まさに食べようとするカイト、だがそこでおかしなことに気がついた。

「あれ?おじさーん。つまようじが一本しかないよ?」

「ごめんよー。ちょっと切らしてて・・・」

申しわけなさそうに謝罪する店主。

あわててカイトは手をブンブンと振る。

「あ、大丈夫です。一本あれば食べられますから・・・」

最後まで深ヶと頭を下げている店主さんに恐縮しながらカイトはルリの所に

戻ってきた。


「・・・つまようじ、一本しかありませんけど」

さっきのカイトと同じようなことを言うルリ。

そんなルリに笑顔を向けてカイトはようじにタコ焼きをひとつさして

ルリに差し出した。

「え・・・」

「一本しかないから、こうやって食べるしかないだろ?」

「そ、それはそうですけど・・・」

「はい。あーんして」

あまりの気恥ずかしさに顔をそむけるルリ。

しかし、カイトは引き下がらない。

「あ〜ん」

ルリの負けである。

遠慮しがちに口を開けてパッとタコ焼きを頬張った。

かなり顔が赤い。

「おいしい?」

「は、はい」

正直、味なんてわからなかった。


「(でも、ちょっとうれしかったかも・・・)」




タコ焼きを食べ終えた二人は屋台を見て回りながらウリバタケを探していた。

が、本当に真面目に探していたかは謎である。

射的、金魚すくい、ソースせんべいじゃんけん、かき氷とそのあとも

ルリとカイトは楽しく屋台見物をしていた。

これまであまり休む機会がなかったカイトにしてみれば、いい骨休めであった。


「お!カイト、ようやく見つけたぜ」

水あめを舐めているカイト達の前にようやくウリバタケが現れた。

ちなみにカイトが杏でルリのがみかんだ。

「あ、セイヤさん」

「ったく、どこでなにしているかとおもえばこんな所でルリルリとデートかよ?
 ほかの連中が見たら、血の雨が降るぜえ〜」

幽霊のような表情でカイトを脅しにかかるウリバタケ。

ルリはまたも頬を赤らめ、カイトは青ざめている。

「は、ははは。いやだな〜セイヤさん」

「ま、冗談はともかくだ。さっさとフィナーレの準備に取り掛かろうぜ」

「あ、はい」

カイトは食べている途中の水あめをくわえてルリの方に向く。


「じゃあ、またあとでね」

「はい。準備、がんばってくださいね」

「うん。期待してて」


そう言い残してカイトはルリと別れた。

「もう少しだけ、二人でいたかったです」

カイトの背中を見送るルリ。

その言葉は彼には届かないけど、彼女はそう思わずにいられなかった。


「でも、楽しかったです。ありがとう、カイトさん」


今日見せた中で最高の笑顔をルリはカイトの背中に贈った・・・



平凡などこにでもありそうな普通の時間。

それはこの『夏祭り』のいくつもある"エピローグ"のほんの前触れに過ぎない。

どんな終わりが待っているのか、それは誰にもわからないことだ。


人の未来というものは星の数ほどあるものだから

                          

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


F&Gの『待たせたなあ』的あとがき


第6話いかがでしたでしょうか?

ボクには難しいことはわかりません。ただ、カイトには数多く体験している

非日常や非現実、それと同じようにある普通の時間というものを

過ごしてほしかった。そんな想いを込めて、書かせてもらいました。


え?話しが繋がってなくないか?フッ、それは気のせいですよ

短い?それも気のせいっスよ

妙にマジに話しているのはそのことを誤魔化すためじゃないか?

はっはははは(滝のような汗)そんなことは・・・・なきにしもあらず

だってだって、皆さんものすごーーーーく展開をおもしろくしていくんですもん

繋げんの難しいですって、一応無理矢理くっつけてみましたけど・・・

これが、未熟なボクの精一杯です!申し訳ない!!


ああ!?やめて、石投げないで!? ああ!?飲みかけのジュースもやめて!?


ほかのボクとは違うしっかりとした参加者の皆さんのエピローグに続きます。

もちろんボクも書きますけど・・・

いよいよ最後です。皆さんがんばっていきましょう!!












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