リレー小説 『夏祭り!』 |
<第3話>
夏祭り期間とはいえ、朝となると人は閑散としていた。
その中をカイトは1人、のんびりと歩いていた。
「おぅ。カイトじゃねぇか。いつも通りぼけっとしたツラして。ちゃんと顔、洗ったのか?」
「そんな。ちゃんと顔は洗ってますよ。けど、そんなにいつもぼけた顔してるのかな?」
「してるぜ。がははっ」
「う〜ん。なんでそう誰からも言われるんだろ」
テキ屋のおじさんとのたわいのない会話。
でも、それだけでは終わらないのがカイトだろう。そのあとにプロスペクターへの注文書を渡されて、行く先々で声をかけられやっかいごとを頼まれたりしていた。
「全く。みんな、僕を便利な道具扱いしてないかなぁ?」
そういいながら、頭をかいていても表情は笑っていた。
「さてと、ついでだから全部回るか。つぎはD区画……?」
歩き出そうと思ったらシャツの後ろ側の裾を引っ張られていた。
ふと振り返ると淡い桃色の髪をした可愛い女の子、ラピスがシャツを引っ張っていた。
「どーしたの、ラピスちゃん?」
カイトは少し腰をかがめてたずねた。
「……ルリガサガシテタ」
「ルリちゃんが……あ、しまった朝食食べるの忘れてた」
「ダカラ、朝ゴ飯ハルリガ作ッタ。ソレハトッテモユリカノ味ガシタ……」
そういうとラピスはカイトから視線をはずした。
ちょっぴり、目尻に涙が浮かんでいた。
「ご、ごめん。少しの散歩で変えるつもりだったんだけど。ルリちゃんの料理の腕はユリカさん似だからなぁ。……あれ、アキトさんは? いつも朝食はアキトさんが作るのに。風邪でもひいたのかな?」
「ウゥン。アキトハエリナガ連レテッタ。ユリカモイッショ」
「ああ……そうなんだ。だからか。ごめんね」
優しくラピスの頭を撫でた。
ラピスはくすぐったそうに目を細めた。
「さて。それじゃ、かえろっか」
「……ウン」
そういうとラピスはカイトの手を引いて歩き出した。
「カイトさん、朝っぱらからどこに行っていたんですか!?」
ナデシコ長屋の部屋に戻ってからのルリの開口がこれだった。
「ごめんなさい。ちょっと散歩するつもりだったんだけど……」
インプリンティグされているのか本能的にびびるカイト。
「いきなりいなくなれば誰もが心配します。わかってるんですか!!」
「ルリ、ウルサイ。カイトハチャント謝ッテル」
「私はただ」
「ワタシガ見ツケタトキ、カイトハオ仕事シテタ」
ラピスは容赦なくルリの口を封じる。
こういったカイトが便利屋というか人からよく頼み事をされ、それを断らない性格なのはルリの方が百も承知である。だから、こういわれるとこれ以上、強くは言えなかった。
「カイトさん。お願いですから、どこか行くときにはひとこと言ってください。私達は家族なんですから」
「あ、うん……」
2人とも顔をほんのり染めていい雰囲気になっている。
それがつまらないのかラピスはカイトのシャツの裾を握って辺りを見回す。
「……ルリ」
「ひゃ、ひゃい!! ら、ラピス、脅かさないでください」
「モウ時間。ユキナトミナトガマッテル」
(ちっ。ラピスがよけいな事をいわなければもう少しカイトさんとラブラブできてたのに……)
「あ、今日はミナトさんとユキナちゃんの手伝いなんだ。それじゃ、遅れないように行かないと」
にこやかに送り出そうとするカイト。
(そ、そんな。今日はカイトさんにも手伝ってもらってあわよくば……)
「ア、ユキナダ」
ルリのよこしまな考えに気付かないのか気付いているのかラピスはめざとくユキナを見つけた。
「ルゥ〜〜リィ〜〜。いつまで待たせてんのよ。ミナトおねーちゃん、車を用意して待ってるんだよ!!」
朝から元気いっぱいのユキナが玄関先から大声で呼ぶ。
「おはよ、ユキナちゃん。ごめんね、ちょっとルリちゃんに心配かけちゃったからそれで遅くなったんだ。これ以上おこんないであげてよ」
「むぅ。仕方ないわね。けど、今度何かおごってね」
「ははっ。OKOK」
呆然としているルリを後目にとんとんと話が進んでいく。
いつの間にかラピスがルリの手を引いてユキナの前に連れてきていたりもする。
「ハイ、ユキナ」
そういってルリの手を差し出す。
「サンキュー、ラピラピ。それじゃね♪」
元気いっぱいのユキナは立ち直ってないルリを引きずっていく。
引きずられていくルリが手を延ばしたみたいに見えたが、ラピスが「どなどなどーなーどーなー」とさりげなく歌った。
ユキナに引きずられて去っていったルリを見送っていたが、それも見えなくなりカイトとラピスは部屋に戻った。
「あ、そういえば今日は休みなんだっけ。それなら、ルリちゃん達を手伝えばよかったかな」
「ハイ、オ茶」
「あ、ありがと」
微笑んでカイトはラピスからお茶を受け取り口を付ける。冷たくもなく熱すぎない。
「はぁ〜。今日はどうしようかな……いつも何かしてるから、なんにもする事がないと」
お茶を飲み終わったカイトはごろんと後ろに寝っ転がる。
しばらくぼぉっと天井を眺めていると影になった。ラピスだ。
「んっ、どーしたの?」
カイトは寝転がったままラピスを見る。
ラピスもじっとカイトを見ていたが、ちょっと寂しそうに座り直した。
そのラピスを見たカイトはふとアキトとユリカの言葉を思い出した。
『ラピスは研究所にとらわれてたんだ。実験体としてね。だからかな、感情表現がすごく苦手なんだ』
『そうなの。だからね、ラピスちゃんが何かしたらそれを敏感に察してあげてね』
(あ、そうなんだ。考えてみれば僕だって暇なんだから)
カイトは立ち上がってラピスに手を差し出す。
「ちょっと今から遊びに行こうよ」
夏祭り会場の裏手にある小高い丘。そこにリュックを背負ったカイトとラピスがいた。
ここからだと会場を一見出来る。
「う〜ん。やっぱりここはきもちいいなぁ〜」
「ココ、ナニモナイ」
初めて見る風景なのだろうが、ラピスの感想は素っ気ないものだった。
「そっかな……けど、探してみると色々あるよ。探してみようか?」
ラピスは不思議そうな顔をしたがカイトに手を引っ張られ歩いていった。
そこで見たものはとてもナデシコの中ではわからないちっちゃなことだった。
そこの花の事や生息している虫の事、とってもちっちゃなこと。
ラピスは始めは退屈だったが、本当に楽しそうに話しているカイトを見ていると自分も楽しくなり、自然と身体が動くようになった。
そうしているとカイトが立ち止まる。
「さて、案内はここまで」
「ド、ドウシテ?」
まるで捨てられた子犬のようにおびえるラピス。だが、カイトは優しく微笑む。
「さっきからずっと僕が案内してたでしょ? 今度からは、ラピスちゃんが探して僕に教えてよ」
「……?」
「理由は簡単だよ。こういうのはね、自分で探して見つけないと楽しくないから。だから、自分自身でラピスちゃん自身で探して見よ。僕も手伝うからね」
「ウン!!」
ラピスは顔をぱぁっと輝かせてカイトの手を引っ張った。
「そうそう。さあ、色々探していっぱい知ろうね」
それから、ラピス主導で丘を歩き回った。いろいろなものが見つかった。もちろん、カイトが知っていたものが多かったが、ラピスの視点でしか解らないものも少しではあったがあった。
小一時間程歩き回ったあと少し早めのお昼にした。
カイトのリュックからでてくる食事はラピスの好物ばかりでラピスに「カイトノリュックハ魔法ノリュック?」などいわれた。
食事も終わり木陰でゆっくり食休みをしていた2人だが、スゥスゥと
寝息が聞こえる。ラピスだ。
朝から歩き通しだから仕方ないだろう。
カイトは手早くリュックを枕代わりにするとそこにラピスを寝かせる。
さらさらとそよかせが2人の間を駆け抜けた。
「北辰さん、そろそろ木の上じゃ、お尻が痛いでしょ。降りてきたらどうですか?」
カイトはなんの気なしに雲を眺めながら言った。
がさがさという音がしたかと思うとカイトノ真正面にあの北辰が立っていた。
「何時、気付いた?」
「その前にラピスちゃんの影になってます。隣に座ってからでも話は遅くないですよ」
「応」
北辰はカイトを挟んでラピスの反対側に座る。
カイトは脇に置いておいた魔法瓶からお茶をついだ。
「先日は目を潰しちゃってすみませんでした」
「否。謝る必要性はない、戦闘の結果だ」
ずずっと音を立てて北辰はお茶をすすった。
「はぁ。いい天気ですねぇ」
「……」
「あ、不思議に思ってるんでしょ。前とはかなり違いますから」
困ったようにカイトは頭をかいて空を見た。
「ちょっと思い返す事があったから、あの時の自分を思い返してみたんです。ああ、つまんないやつだなって。だからまあ、なんというかやっぱり素でいるのが一番だなって」
「我は楽しかったが?」
「でも、one or zero。やっぱり、つまんないですよ。人を傷つけるのはやっぱり寂しい事ですから。それにそうする事で自分が小さくなりますから」
「……」
北辰は何も言わず、静かにお茶を飲んだ。
「何があって僕たちを襲ったのかは知りません。でも、理由があるならば話してみてくれませんか? でないとわかりませんよ。話せばわかりますから」
「我からは話す事は出来ない」
「じゃ、このことを話してください。それがいやだったら……そーですねぇ。この夏祭に参加して僕たちの事を知ってください。そうすれば少しは信用できると思いますから」
カイトはにっこりと北辰に笑いかける。
「彼の者達は納得するまい。特にテンカワの比翼はな」
「説得しますよ。今のあなたなら信用できる。ラピスちゃんがこんなに穏やかに眠ってる」
風がラピスの髪に悪戯をする。
むずかゆそうにしたのでカイトは優しくラピスの髪を整えた。
「この子は敏感です。先日は僕の視界にすら入ってくれませんでしたから」
「ラピスは我を恐怖に思ってないと?」
「本能的には。やっぱり、顔を見ちゃうと怖がっちゃうかもしれませんが」
「むぅ……」
「もお、ふてないでくださいよ。そこら辺は自業自得でしょ。でも、何かが変わればこの子も変わるかもしれません」
カイトは慈しむようにラピスを見ながら、その髪を撫でた。
「すぐには難しいと思いますから、じっくり考えてみてください。何時でも僕は待ってますから」
「おぬしは何も拒絶しないのだな」
「はっ?」
「いや、独り言だ」
このとき北辰はカイトを少しばかり理解したのかもしれない。
しばらく2人は何も話さず、ただ座って雲が流れるのを見ていた。
カイトも疲れがでたのでうつらうつらとしていた。
そのせいか、何時北辰が去ったのかはわからなかったが、いつの間にかきれいに洗われた魔法瓶と『また茶を御馳走になりに行くだろう』達筆に書かれた紙が彼の座っていた場所にあった。
「全く、素直じゃ無いなぁ」
カイトが頭をかいているとラピスがもぞもぞと動き出し、閉じていたまなこからとろんとした瞳を覗かせた。
「おはよ。眠り姫様」
「……オハヨウ、カイト」
少しずつ影が長くなる帰り道。
2人は手を繋いで帰っていた。
「ネエ、カイト?」
「んっ? どうしたの」
「ワタシ、夢見てた」
「へぇ。どんな夢かな?」
「ヨク分カラナイ。デモ、デテキタノハワタシヲサラッタ人トカイトワタシ。
マタサラワレルカト思ッテ怖カッタケド、カイトガ人攫イト話シテルウチニコワクナクナッタ。
ソシテワタシトカイトハ安心シテ寝チャウノ」
「あらら、それじゃ守り人失格かな?」
カイトは困った顔をした。
「ウゥン。人攫イハ私達ヲシバラク見テイルト私達ノ頭ヲ撫デテ帰ッテイッチャッタ」
「不思議な夢だね」
「ウン。デモ、ミンナ優シイ顔ダッタ」
ほろりとラピスは破顔した。
「いい夢だったんだね」
「イイ夢ダッタ」
今度ははっきりと誇らしげににっこり笑った。
つられてカイトも笑った。
「あ、アキトさんとユリカさんだ。ちょうど帰ってきたみたいだね」
「アキトー、ユリカー」
ラピスは車から降りたアキトとユリカに向かって手を振った。
夢、それは幻かもしれない。
でも、きっといい夢だ。
きっと明日もまたいい夢になるだろう。
祭という名の夢はまだまだつづく。
つづく
へたれあとがき
おわりました〜〜〜。
初期の想像以上に大変でしたね。
では、シックルさんがんばってくださ〜い。
ルリ:ちょっと待ってください。わたしの出番ってラピスの引き立て役?
そうだよ。
ルリ:がーん!!
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